国家の利益~国益の理論と歴史
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日本外交の「王道」であるべき「開かれた国益」とは?
国家の利益~国益の理論と歴史(12)日本の国益―「開かれた外交」を目指して
政治と経済
小原雅博(東京大学名誉教授)
日本の国益とは? その答えはイデオロギー的にならざるを得ない。国益追求を強硬外交につながる排他的で危険な概念とする流れがある一方、国際協調を弱腰と批判し、国益を強く主張する流れもある。しかし、国益と国際協調は二者択一なものではない。今追求すべき「開かれた国益」について考えていく。(全16話中第12話)
時間:8分07秒
収録日:2019年4月4日
追加日:2019年7月28日
カテゴリー:
≪全文≫

●イデオロギー的な色合いを持つ日本の国益論議


 皆さん、こんにちは。これまでは歴史的展開を見てきましたが、ここからは理論的な議論を進めていきたいと思います。

 国際環境の構造的変化、そして日本の政治的・経済的変化の中で、国益を論じることが必要とされているわけですが、「日本の国益とは何か?」と問われると、答えに窮したり、考え込んだりしてしまいます。私が東京大学で開講している国際政治のゼミにおいても、学生たちの答えはさまざまです。それはなぜでしょうか。日本での国益をめぐる議論がイデオロギー的な色合いを帯びてきたことに、原因の一つがあると思われます。

 日本における国益論議には、相反する二つの流れがあります。一つは、国益は強硬な外交につながる排他的で危険な概念であるとの警戒感から偏狭な国益を排して、国際協調を重視しようとする流れです。そして、もう一つは、日本の経済的停滞や中国の台頭などを背景にして、国際協調を弱腰や追随と批判し、「国益」を強く主張すべしと迫る流れです。

 前者は、日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」といった国際主義によって「国家・国民の生存と安全」という国益を保持しようとする理想主義に通じます。これに対し、後者は、国民の不満や不安や閉塞感を癒す形でのナショナリスティックな勇ましい主張につながりかねません。

 しかし、国益と国際協調は二者択一ではありません。国益は国家の目標であって、国際協調はそれを実現する方法、外交姿勢なのです。国際協調は、一貫して戦後日本外交の基調であり続けています。国際協調による国益追求という「開かれた国益」が日本外交の「王道」なのです。


●国際社会の現実を踏まえる「開かれた国益」


 それでは、「開かれた国益」とは何でしょうか。三点指摘しておきたいと思います。

 第一に、国際社会の現実と自国のパワーを踏まえ、国益を確定し、戦略を立て、国益実現のための外交を展開するということです。これが、国益外交の基本であるといってよいでしょう。

 第二に、自国に国益があるように他国にも国益があることを認識した外交を行うことです。他国と対立する利益には理性的に対処し、その影響を最小限に抑えるマネージメントが重要になります。同時に、他国と共有し得る利益...

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