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冷戦下での世界の軍事化・暴力化から9.11同時多発テロへ

国家の利益(10)冷戦終結と9.11の衝撃がもたらした変化

小原雅博
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
情報・テキスト
9.11同時多発テロ
(ワールドトレードセンターの崩壊直後の様子)
1989年、ベルリンの壁の崩壊が冷戦終了を告げ、ヨーロッパはEUを拡大・進化させる。一方、湾岸戦争の勝利で国際正義を実現したアメリカが経済的にも世界の覇者となる。しかし、冷戦下に進行した世界の軍事化・暴力化は、2001年の同時多発テロの呼び水となった。9.11以降の世界が直面する問題の原因を探っていく。(全16話中第10話)
時間:10:06
収録日:2019/03/28
追加日:2019/07/21
ジャンル:
≪全文≫

●冷戦後の「歴史の終わり」という楽観論


 皆さん、こんにちは。第10回の講義では「冷戦終結と9.11同時多発テロの衝撃がもたらした変化」について論じてみましょう。

 東西対立という冷戦構造の下では、何が脅威で、何が国益かは明確でした。しかし、東側陣営(音声では「東西」)が崩壊すると、脅威や国益は見えにくくなり、国際関係も流動化しました。グローバル化と情報技術革命がそうした変化を複雑で不透明なものにしたのです。冷戦後の国際政治の変化とグローバル化の流れを振り返ってみましょう。

 1989年11月9日、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が崩壊しました。フランシス・フクヤマは、この歴史的転換を「歴史の終わり」と呼びました。つまり、人類が自由民主主義に向かうという世界の流れが主流となって、理性に支配される歴史の究極的な目標は自由であるとの哲学者ヘーゲルの歴史観が実現されるということです。

 フクヤマの予想した通り、楽観論と「フラット化する世界」は、民主主義と市場経済が広がる平和と繁栄の世紀を約束したかのようでした。ヨーロッパでは、国家の主権や内政不干渉を柱とするウエストファリア・システムを乗り越えようとするヨーロッパ連合(EU)の拡大と深化が続きました。それは、ヘーゲルを含むドイツ観念論への系譜をつくったイマヌエル・カント(1724-1804)が著書『永久平和のために』で描いた「自由な諸国家の連合」という夢に向けて前進するかのようでした。


●市場経済化するロシア、「パクス・アメリカーナ」の時代


 ロシアでも民主化と市場経済化の進展が期待され、G7サミットへの参加も認められました。唯一の超大国となったアメリカは世界を率いて湾岸戦争で勝利し、国際正義を実現しました。「世界の警察官」としてリベラルな国際秩序を支える意思と能力が世界に示された時でした。朝鮮半島や台湾海峡など冷戦の残滓が消えない東アジアでも、インドシナ諸国も加盟した東南アジア全域を包摂したASEAN、改革・開放を推進した中国などを中心に高い経済成長が続きました。

 そんな中で起きた1997年のアジア通貨・経済危機は、域内の経済相互依存の高まりを認識させました。事実上の経済統合が進む中で、制度的統合への構築も始められ、その年に始まったASEAN+3(ASEAN+日中韓)首脳会議は、翌年、定例化され、1999年には、日中韓首脳会議もスタートしました。その渦中にいた私は、東アジアの地域主義のうねりを感じながら、地域の対話と協力の強化に奔走しました。

 アメリカでは、ITが牽引する形で、空前の好景気が続いていました。誰もが、「パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」の時代を感じていたのです。

 しかし、そこには同時進行していた核軍拡競争ともう一つのグローバル化が隠れていました。


●40年にわたる軍拡競争が導いた世界の軍事化・暴力化


 東西冷戦の時代、米ソ両国は核抑止という考え方の下で、極限状態においてすら互いに使用不可能な兵器の生産とその破壊力の向上に膨大な資金と資源を投入していました。そこには、恐怖に支配された「国家理性」の存在がありました。米ソの軍拡競争は、それを支える経済力の差でアメリカの勝利に終わりましたが、しかし、そのアメリカもまた巨額の貿易・財政赤字に苦しみ、超大国のパワーにも陰りが見え始めます。

 40年にわたる冷戦が軍拡競争ではなく、世界の貧困や格差の是正とグローバル・ガバナンスの強化の時代になっていれば、そして、大量破壊兵器の拡散に断固たる取り組みがなされていたならば、今日の世界はずいぶんと違ったものとなっていたでしょう。

 もう一つのグローバル化も見落とされてはなりません。世界中を巻き込んだ東西冷戦の中で、膨大な数の武器が世界中に溢れてしまいました。冷戦によって押さえつけられていた民族や宗教の対立が表面化すると、そうした武器が暴力を武力紛争にまでエスカレートさせました。グローバル化の進展の裏で、テロリストが跋扈し、大量破壊兵器の拡散も起きました。過激思想と暴力の広がりが「新たな戦争」を生み、自由で開かれた社会を直撃し始めます。超大国アメリカさえも攻撃対象となったのです。


●二機の旅客機が激突したワールド・トレイド・センター


 2001年9月11日にアメリカ中枢を襲った同時多発テロは、それまでの安全保障観を一変させました。そして、冷戦に勝利したリベラルな価値-自由や人権、民主主義、法の支配といった普遍的価値-は、イスラム原理主義という過激思想と衝突することになりました。

 そもそも、テロそのものは長い歴史を持つ非近代的戦術ですが、冷戦後のテロはグローバル化と情報化の利便性を巧みに利用した新しいタイプの戦争として登場しました。米国、そして...
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