国家の利益~国益の理論と歴史
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
二つの世界大戦が物語る各国のパワーの差と国益の意味
国家の利益~国益の理論と歴史(7)パワーと国益が支配した二つの世界大戦
政治と経済
小原雅博(東京大学名誉教授)
世界大戦の深刻さは、近代兵器による殺傷力の高さだけでなく、国民経済や一般市民を総動員する総力戦にもよるものだ。ささいな火種が瞬く間に広がり、全ヨーロッパを巻き込んでいくのは、国際間の同盟関係がマイナスに働くためである。二つの世界大戦の経緯と各国のパワーや国益について考えてみたい。(全16話中第7話)
時間:15分16秒
収録日:2019年3月28日
追加日:2019年7月14日
カテゴリー:
≪全文≫

●未曾有の殺戮と破壊をもたらした第一次世界大戦


 第7回の講座では「パワーと国益が支配した二つの世界大戦」についてお話をしましょう。

 ヨーロッパ全土に張り巡らされた同盟関係によって、バルカン半島の一都市で放たれた一発の銃弾が瞬く間に燎原の火となってヨーロッパを席巻しました。気が付くと、スイスを除く全てのヨーロッパ諸国が二大陣営に分かれ、かつてない悲惨な大戦に突き進んでいたのです。

 不幸なことに、平和が続いたヨーロッパでの最後の戦争は第一次世界大戦の40年も前の普仏戦争でした。しかも、それは短期間で終結し、パリは無血開城されました。ヨーロッパの政治家や軍の指導者も、また国民も、来たる戦争が1千万人を超える戦死者、無数の負傷者、そしてチフスによる百万もの死亡者など桁違いの被害をもたらすことになるとは想像もしませんでした。科学技術の進歩によって破壊力が格段に増した新兵器と、国民経済や一般市民を総動員する総力戦が、未曾有の殺戮と破壊をもたらしたのでした。

 戦局の転機はアメリカの参戦によって訪れました。大戦が始まった頃、アメリカはすでに世界最大の工業国でした。例えば、国家の力を象徴する鉄の生産は、イギリスとドイツの合計の倍以上に達していました。ドイツの無制限潜水艦攻撃がアメリカの世論を硬化させ、アメリカが参戦すると、戦況は連合軍に有利になっていきました。ドイツでは、工業生産が戦前の半分に落ち、反戦運動が起き、キール軍港の反乱などによって帝政は崩壊してしまいしました。4年以上にわたってヨーロッパを荒廃させた第一次世界大戦はこうして幕を閉じたのです。同時にヨーロッパが世界を支配する時代も終わりを告げました。


●ドイツに過酷な賠償を課した戦後国際秩序の失敗


 戦後、ヴェルサイユで行われた会議は難しいものになりました。特に問題になったのは、ドイツに対する賠償です。結果的に、ドイツに対して極めて報復的で過酷な賠償を課すことになりました。そして、ドイツ人居住地域であったズデーデンなどの割譲を強いるなど、結果は安定した戦後秩序をもたらすものとはなりませんでした。

 この講和会議に参加したドイツ代表団は、「ドイツ国民の支払い能力に関係なく賠償額を決められるはずはない」と抗議しましたが、イギリスのロイド・ジョージ首相などは...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
「新しい資本主義」の本質と課題(1)新自由主義と『21世紀の資本』
新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
柳川範之
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子