国家の利益~国益の理論と歴史
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ホッブス『リヴァイアサン』とスピノザ、ロック、ルソー
国家の利益~国益の理論と歴史(4)「リヴァイアサン」を考える
小原雅博(東京大学名誉教授)
「リヴァイアサン」は、旧約聖書に登場する海の怪獣である。ホッブズは、その身体を無数の人民からなると考え、国家の象徴とした。「正当化された暴力の独占」を国家に見たのは後世のマックス・ウェーバーである。ホッブズの問題提起はヨーロッパでの国家論に大きな影響を与え、さまざまな議論が続く。(全16話中第4話)
時間:8分57秒
収録日:2019年3月28日
追加日:2019年6月30日
≪全文≫

●「リヴァイアサン」の下での安全と「破綻国家」


 今回の講義では、前回に引き続いてホッブズの思想について、思索を深めていきたいと思います。

 ホッブズが主著の題名とした「リヴァイアサン」とは、旧約聖書「ヨブ記」に登場する、「地上に比較されうる何ものもなく、恐れを知らぬように創られた」巨大な海の怪獣です。

 ホッブズの著書『リヴァイアサン』の表紙には、右手に剣を、左手に聖職者の持つ牧杖を持って平和な田園風景を見下ろす巨人の姿が描かれています。

 よく見ると、この巨人の体は無数の人民からなり、頭は王冠を頂く主権者としての君主です。それは、国民が自然権を一人の主権者に譲り渡すことで、絶対的権力としての主権の下での平和と安全を実現することを示唆しています。自然権を委ねることで生まれる主権は、自然権の判断すなわち理性を委ねられたわけであり、主権は国家理性(国益)を体現することになるわけです。

 国家の最大の役割は、暴力を独占することで国民を法に従わせ、社会の安全を保つことにあるといえます。マックス・ウェーバーは、これを「正当化された暴力の独占」と呼びました。

 この権力を委ねられた君主なり政府なりが強くて安定していないと、社会の安定は失われ、個人の安全は保障されません。これは今も変わらぬ現実です。今日「失敗国家」あるいは「破綻国家」といわれる南スーダン、ソマリア、イエメン、シリア、アフガニスタン、イラクなどの諸国はその例です。


●スピノザが主張した「国家の目的は自由にあり」


 しかし、国家は単に安全のためだけに存在するのでしょうか。そうではありません。オランダの哲学者スピノザ(1632~77)は、著書『国家論』において、「平和が臣民の無気力の結果にすぎない国家、獣のように隷属することしか知らない国家は国家というより、曠野と呼ばれてしかるべき」と説きました。そこには、ホッブズが論じた無制限の絶対的主権によって無視された自由への希求がありました。

 スピノザは、国家状態を、恐怖に加え、希望という共通の感情によって結び付いた一つの共同体だと捉えました。したがって、肉体の安全のみならず、精神の自由、すなわち思想・言論・表現の自由を認めることなくして国家体制の安定と平和はないと主張したのです。著書『神学・政治論』の最終...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは
島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本
テンミニッツ・アカデミー編集部
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(4)トランプ大統領VS.中国
トランプ政権は実は与しやすい?…ディールで「時間稼ぎ」
垂秀夫