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キューバ危機でケネディとフルシチョフが見せた指導者の理性

国家の利益~国益の理論と歴史(9)キューバ危機と世界益・人類益

小原雅博
東京大学名誉教授
概要・テキスト
国家安全保障会議執行委員会(エクスコム):ケネディ大統領(写真中央上部)、
マクナマラ(大統領の右)、ロバート・ケネディ(写真一番左)
1962年のキューバ危機は、人類が第三次世界大戦に最も近づいた13日間と呼ばれる。それは核戦争を意味するだけに、事態に直面したケネディとフルシチョフの両首脳は、両国が可能な限りの譲歩と歩み寄りを模索した。自国の利益とともに、「人類の利益」を尊重することが政治指導者の理性を磨いたのである。(全16話中第9話)
時間:10:01
収録日:2019/03/28
追加日:2019/07/21
カテゴリー:
≪全文≫

●人類危機の13日間、アメリカが取り得た6つの選択肢


 第9回の講義では「キューバ危機と世界益・人類益」についてお話しします。

 1962年、ソ連がフロリダの鼻先にあるキューバに核ミサイル基地を建設していることを知ったアメリカは、カリブ海で海上封鎖を実施します。米ソ間の対立・緊張が高まり、世界は核戦争勃発の危機に直面します。

 ソ連のフルシチョフ書記長がミサイル撤去を発表するまでの13日間、ジョン・F・ケネディ大統領はこの危機にどう対処するか、14~15人のメンバーからなる国家安全保障会議執行委員会(EXCOMM)を断続的に開催しました。そこで議論を重ねて、6つの選択肢がテーブルに上がります。

1.何もしない
2.ソ連の譲歩を引き出す外交(トルコからのミサイル撤去との取引)
3.カストロに働きかける(キューバ・ソ連関係の見直しを要請する)
4.海上封鎖
5.キューバのミサイル基地への空爆の実施
6.キューバへの軍事侵攻


●ケネディ大統領の選択と外交努力


 空爆を主張する声が強まる中で、ケネディ大統領は、熟慮の末、海上封鎖を選びます。それは、「何もしない」(1)と「武力攻撃」(5か6)の中間的措置といえます。アメリカの強い意思を示すには十分でありながら、空爆ほどには拙速でもなく、バランスの取れた選択といえます。

 ケネディの決断は、アメリカへの核の脅威を取り除こうとすれば人類の破局に直面するという未曽有の心理的圧力に直面しながら、極めて限られた時間と不十分な情報の中で行われました。にもかかわらず、アメリカの安全という「死活的国益」と人類の生存という「世界益」を守るという外交目標を達成したのです。

 ケネディ政権は、国際社会の理解を得るための多国間外交に努めました。国連安保理やNATOの支持を得た他、米州機構(OAS)では海上封鎖(アメリカは「隔離」と呼んだ)の法的正当性を確認することでアメリカの立場を強化したのです。国連安保理で初めて世界に示されたキューバ・ミサイル基地の写真は効果的でした。アメリカは国連の場を通じて、海上封鎖の具体的範囲を示すなど、ソ連との意図せざる衝突を避ける努力もしました。多国間主義は、道義や国際法上の正当性を高め、国際世論を味方につける上で有用だったといえます。


●発揮された米ソ両指導者の理性


 キューバ危機の...
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