岸信介と日本の戦前・戦後
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
「統制経済」で重宝され…喧嘩っ早い岸の官僚時代の武勇伝
第2話へ進む
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
井上正也(慶應義塾大学法学部教授)
戦後、A級戦犯容疑者として獄中生活を送ったのち、政界復帰からわずか4年で内閣総理大臣にまで上り詰めた岸信介。戦前と戦後を跨いだその激動の政治家人生は、どのようなものだったのか。晩年になって「昭和の妖怪」といわれた岸、その評価は二分され、毀誉褒貶が相半ばする政治家というイメージだが、その実体についてはまだ分かっていない部分が多いのではないだろうか。単なる保守ではない、岸の思想の背景には、東京帝大在籍時に影響を受けた二人の人物の思想があった。(全7話中第1話)
時間:17分01秒
収録日:2022年9月2日
追加日:2023年2月18日
≪全文≫

●「昭和の妖怪」岸信介の実体を明らかにする必要がある


 今日お話しさせていただくのは、「岸信介における戦前と戦後」というテーマです。岸信介という人を考える上で非常に重要なのは、その評価が二分されていることです。非常に毀誉褒貶が相半ばする政治家というのは、これは今も昔も変わらないのだと思います。

 一般に岸というと、1960年の安保闘争というもののイメージが非常に強いと思うのです。その安保闘争もわりとネガティブなイメージを、ある世代以上の日本人は抱いています。というのも、そもそも戦前、太平洋戦争が始まる時に開戦の詔書に署名をしました。つまり岸は商工大臣として、閣僚として東條英機内閣に加わっていたわけです。戦後はA級戦犯に指名されて、約3年間獄中にいました。釈放された後で政界に復帰するのですけれども、その後で自民党の初代の幹事長などを経て、政界復帰からわずか4年あまりで総理大臣になったわけです。

 ただ、この岸という政治家は、非常に戦前の暗い影を引きずっているのだということで、日米安全保障条約を改定しようとなった時に国民から強い反発を生みました。決定的だったのは、改定された安保条約を国会で通す時に強行採決をしたことで、ある種、戦後民主主義の敵のように描かれてきました。そう評価されてきたのです。

 首相を辞めた後も、反共主義であるとか、憲法の改正を主張して政界に非常に強い影響力を残しました。どちらかといえば保守政界、保守の右派の中の奥の院として君臨したというイメージが強いわけです。

 今日でも、安倍晋三元首相の暗殺でクローズアップされている自民党と統一教会の関係を見ても、やはり元をたどると岸と国際勝共連合との関わりが源流にあるのだという指摘がよくいわれます。

 そう考えると、岸という人はどちらかというと戦前の暗い影を引きずって、さらに戦後、政治における闇の部分のようなものを一身に背負っているような見方がなされてきたわけです。

 しかしながら、この30年、冷戦が終わってから90年代以降、岸の評価はずいぶん変わってきているところがあると思います。ひと言でいうと、それは「岸信介再評価」です。つまり、かつては民主主義の敵とまでいわれた安保改定における岸の決断というものが、実は振り返ってみたら毅然として安保改定をやったことが今...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
平和の追求~哲学者たちの構想(3)サン=ピエールとモンテスキュー
「国連」の発想の源は?…一方、小共和国連合=連邦構想も
川出良枝
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
禅とは何か~禅と仏教の心(2)仏典漢訳から日本仏教へ
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照
大人の学び~発展しつづける人生のために(2)熟達と遊び~好奇心から始まる学び
好奇心はコントロールが効かない…遊びの重要な条件とは
為末大
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(2)翻訳に込めた日米の架け橋への夢
アメリカ人の心を震わせた20歳の日系二世・三上弘文の翻訳
門田隆将
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦