岸信介と日本の戦前・戦後
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自由党への葛藤と決断――政治家・岸にとって最大の転換点
岸信介と日本の戦前・戦後(5)国民運動の挫折と自由党入党
井上正也(慶應義塾大学法学部教授)
日本の将来を見据えてあるべき政治体制を模索してきた岸信介は、戦時中から政治活動の基盤となる組織形成に尽力していた。しかし、戦後、A級戦犯処分を受け、不起訴で釈放となるもしばらく隠遁生活を送ることになる。その後、国民運動を企図し、「日本再建連盟」を立ち上げるが挫折。そうした中、政治家・岸にとって最大の転換点となったのが自由党入党の決断である。そこにはどんな想いがあったのか。戦争末期から国会議員に復帰する1953年までの流れを追いながら解説する。(全7話中第5話)
時間:13分57秒
収録日:2022年9月2日
追加日:2023年3月18日
≪全文≫

●戦後を見据えて政治組織の立ち上げに力を注ぐ


 さて、こうした形で東條政権を潰し、岸信介自身もまた下野することになるのですけれども、岸ののちの政治家としての障害を考えた時に重要だったのは、彼が1942年の翼賛選挙に出馬して当選しているということです。彼は現職の商工大臣のまま代議士になったのです。ただ、この後、軍需省に分かれた時に岸が軍需次官に格下げになるのですけれども、次官というのは、大臣はできるが政治家と兼任できないのです。なので、そのために代議士を辞職することになったわけです。

 ただ、面白いのは、官僚や軍人が政治を全部動かしていくような時代は長続きしないのではないかということを、岸がこの頃から考え始めていたことです。つまり、何らかの形で国民と直接接点を持った政治組織をちゃんと立ち上げなければいけないのだということを、岸は戦争中に早くも考え始めていたわけです。

 岸の興味深いところは、戦争中から何度も、新しい政党であるとか党組織のようなものを作ろうとしている点なのです。

 国務大臣を辞めた後で、岸は山口県に戻るのですけれども、山口県で地元の人々と語らって、「防長尊攘同志会」という新たな政治団体を作っています。さらに太平洋戦争末期の1945年3月になると、今度は「護国同志会」という組織を国会の中で立ち上げています。岸は、表向きは指導者にならなかったのですけれども、実は裏で実質的なリーダーをしていたといわれています。

 戦争というものがどういう形で終わるかということはまだこの時、岸はよく分かっていませんでした。しかしながら、戦争中からもう戦後というものを見据えて、政治活動を行うための組織をこの頃から作ろうとしていたわけです。

 これは、岸の戦後の政治活動を考える上でも非常に興味深かったし、こういう政界との付き合いができる中で、後の1950年代に岸が自民党の中で有力な政治指導者として出てきて、首相になる中で彼を助けた側近の政治家たちと知り合っているのです。

 例えば、川島正次郎という、岸信介の下で幹事長を務めた有力な党人派の政治家ですけれども、川島は戦争中に岸と知り合ったといわれています。


●A級戦犯処分から不起訴で釈放、葛藤の隠遁生活へ


 しかしながら、岸にとって大きな計算違いとなったのは、日本が敗戦した後、彼は東條政権の閣僚であって、戦争を遂行した...

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