●原点に戻り、儒・仏・道・禅・神を活かした国家づくりを
―― 先生が教えてくれたその弟子の横井小楠も佐久間象山の構想が、これからという時に亡くなってしまうんですね。
田口 亡くなっちゃう。
―― そうすると、大久保利通も伊藤博文ももうしょうがなくて、
田口 岩倉使節団、あれしかなくなってしまった。
―― あれしかなくなってしまったんですよね。
田口 あれしかなくなっちゃったから洋魂洋才になってしまったんですよ。やはりそこで、もう1回、現代を考えるべきで、今もう1回日本の構造を建て直すべき時ですよ。
―― 今まさにそういうことですよね。
田口 そうですね。
―― 今やはり、比較的翻訳がうまかった日本が、つまり、仏教が入ってきても禅が入ってきても道教が入ってきてもうまく組み立てられた日本が、今ここでおかしくなっちゃいましたね。
田口 そうなんです。だからもう1回原点に戻るしかないということは、「儒・仏・道・禅・神道(儒教、仏教、道教、禅、神道)」に戻って、それを活かした国家づくりというものをするべきなんですよ。ちょうど150年前の明治維新というわれわれにはすごいモデルがあるので、そういう意味では横井小楠、佐久間象山などに学ぶべきです。横井からは日本の独自性を活かした国家とはどういうことかを学ぶ。佐久間には、第四次産業革命でAIとか人工知能とか入っている先端産業の技術を、どうやって得たらいいのか、使ったらいいのかを学ぶべき時ですよ。
―― そうでしょうね。
●大久保利通、伊藤博文が示した実行力
田口 それで実行係として大久保と伊藤がいるというすごさ。この2人の実行力ということについて、1つだけお話しして帰ろうと思いますが。要するに、岩倉使節団に加わって彼ら2人はアメリカに行きますね。そして、サンフランシスコで大歓迎を受けるんです。ちょうどその頃、大陸横断鉄道ができてそれでワシントンへ行くと、ワシントンでも大歓迎。時の大統領も「すぐに来い」と言って晩餐会を行って、大歓迎するんです。
それで、彼らはちょっと勘違いをしてしまいます。こんなにアメリカが日本を大歓迎しているということは、あの安政の不平等条約(安政五ヶ国条約)を改正するいいチャンスが来た、と彼らは思ったのです。
そこで、切り出すわけです。「1つお願いがある。安政の条約を改正したいと思いますが」と。しかし、アメリカもしたたかで、「いやぁ結構ですね。それはいいチャンスですね。是非やりましょう」となって、「いつからやりますか」「明日」。「明日、いいですね。では、これから準備万端整えていきます」と、言うんです。
そして、翌日になって席につくと、向こうが「ところで国家と国家の条約の改正には、その国家のトップの了承を得ているという証書が必要なことは、よくご存知ですよね。まさかそれが無くて改正しようとは仰らないですよね」「はい、あります。ただ、ホテルに置いてきてしまったので、今日はこの辺で止めておきます」と日本側は言うんです。
でも、そんな証書(国書委任状)なんて持っていないんですから、「弱ったな」ということですよ。そりゃ、今日は無しということになったけれども、明日また会うことになっているからどうするの、というわけですが、ここが伊藤のすごさです。「取りに帰ろう」と言うんです。
―― すごいなぁ。
●今、大久保と伊藤に学ぶべきこと
田口 要するに大陸横断鉄道で何日もかかって、当時はサンフランシスコと横浜は26日間だかそのくらいかかるんですよ。26日かかって取りに帰って、また26日かかってサンフランシスコに来て、5日くらい大陸横断鉄道に乗って。それを「やろう」と思う気力がすごいじゃないですか。
―― すごいですよねぇ。
田口 それで、本当に帰るんですよ。
―― 大久保も帰っていくんですか。
田口 2人で帰ったんです。
―― たいしたもんですね。
田口 ところが、その時の外務省が「あなたたちは外務省でも何でもないでしょう。それは越権行為だ。そんなものは了承できない」と、要するに「天皇のお墨つきもなにも出さない」と寺島宗則外務卿が言ったわけですね。そこで困って、「皆待っているんだ。今日来るか、明日来るかと。それでも出さないなら腹を切るしかない」と2人が言うので、「この2人の腹を切らせてはいけないのではないか。持たせてやれよ」ということになり、今で言う外務次官が2人について、ずっとまたアメリカまで行くということになったんです。
そうして、ワシントンに行くんです。ところがとっくのとうのタイミングですから、使節団は皆ヨーロッパに行ってしまっていたという。でも、そういう取りに帰ろうというのがすごいんです。
―― そうですね。そこが違いますね。
田口 そこが違うということを...