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青白いインテリではなかった幕末期の賢人たち

幕末の人材論~逸材の素顔(1)佐藤一斎、松浦静山、吉田松陰のすごみ

情報・テキスト
佐藤一斎
田口佳史氏が、佐藤一斎、松浦静山の辻斬りにまつわる逸話を紹介。また、田口氏は平戸の松浦文庫を通じて、吉田松陰との不思議な縁でつながったと言う。これらの話からうかがえるのは、一斎、静山、松陰という幕末期の賢人のとてつもない「すごみ」である。(全2話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:58
収録日:2019/06/14
追加日:2019/10/02
≪全文≫

●「辻斬り」さえした佐藤一斎、松浦静山のすごさ


田口 私は佐藤一斎という人を講義するときに必ず言うのは、「佐藤一斎ってどういう人だと思いますか」と聞くんです。すると、「学者でしょ」と答える。今度は、「学者ってどういう人ですか」と聞くと、大体「青白いインテリ」と言ってくる。そこで、私は「だけどそれは全然違うんですよ」と言います。

 佐藤一斎というのは、若い頃は名うての暴れん坊で、辻斬りなどで毎日毎夜出歩いて、吉原なんかでいい調子になって帰ってくる。「斬った」というと本当に斬ってしまうことになりますが、彼は全部峰打ちしていたんです。要するに辻斬りの醍醐味はどこにあるかというと、相手が切りかかってきたら一応武士ですから刀を抜きます。しかし、パッと立ち合った瞬間に、少々剣の心得があれば相手の動きが見えるときがあります。そうすると、一斎に向き合った相手は、「こんなすごい腕前の人間にはかなわない」と抜き身をポーンと放って逃げていく。従って、辻斬りの醍醐味というのは、抜き身をする刀を何本持って帰るか、ということなんです。

―― なるほど、面白いですね。

田口 松浦静山という江戸時代の大名がいますが、私の愛読書で「甲子(きのえね)の夜の話」と書いて、『甲子夜話(かっしやわ)』、というのがあります。松浦静山の書いた本なのですが、そこにこういうことが書いてある。この人もやはり辻斬りの名人で抜き身の刀をたくさん持って帰っている。毎日毎日持って帰るんです。そこである時、松浦静山が国元の平戸に帰るという時のことです。「今日は宴席をもうけ、皆さんに非常にお世話になったから一献さしあげたい」という案内状がきたので、50人、60人という人が皆松浦邸に行って、「本当にこのご厚意に感謝する」と言って、一献をくみかわした。

 そこで、松浦静山が「引き出物を用意しておりますから皆さん、持って帰ってください」と言って手をたたくと、女中が後ろのふすまをすっと開いたのです。そうすると、抜き身の刀がずらーっと並んでいるんです。招かれた客たちは、わーっと寄って「あ、おれの刀だ」「これはおれのだ」と言って、持って帰った。そういう惜別の宴になったのです。

―― いやぁ、松浦静山はすごいですね。なるほど。当時、そんな人がいたんですね。


●平戸でつながった松浦静山、吉田松陰との縁


田口 そうなんですよ。実は私は不思議なご縁があるんです。タイのバンコクに行って日本に帰ってきて養生しなければいけないという時に、ある運輸会社の社長さんが、「今度平戸に教育所を作って、そこはまだ開いていないのだけれど、賄いの人間がいるからそこで養生されたらどうか」と言ってくれたのです。そこで、その平戸の研修所、まだできたてで賄いのご夫婦がいる所で、3ケ月も過ごさせていただきました。そのことが、本当に私の整理整頓になったのです。

 そのような頃、平戸というのは橋があるから、当時は渡り舟で行くんです。要するに陸の孤島のような所で、気晴らしに行くような所もないのです。ですが、平戸には江戸時代に松浦静山がいたので「松浦文庫」というのがありました。その人(運輸会社の社長さん)は松浦文庫に顔がきいたので、そこで、「あなたは若いのにごろごろしていても仕方ないから、松浦文庫にでも行って松浦静山を勉強したらどうですか」と言われて、紹介状を持って松浦文庫に行ったら、本当によくしてくださいました。

 私は毎日通いましたよ。そこにはたくさんの古典がありました。また、そこには松浦文庫を訪れた人たちが、感謝の念を書いているものがあるんです。それを読むと、一番トップに誰が書いてあったと思いますか。吉田松陰が書いているんです。

―― 吉田松陰ですか。ほぉ。

田口 吉田松陰が三日三晩、寝ることもせずにある書物を徹底的に読んだのです。そういうことがありましたね。だから、図らずも私は吉田松陰と名前を並べたということです。

―― それはすごいことですね。

田口 今考えても、そのくらいに非常に面白い本がたくさんありましたね。そういうご縁があるのです。


●佐藤一斎こそが、幕末の人材を育て上げた


田口 要するに、また佐藤一斎の話になりますが佐藤一斎はすごい人です。一斎の『言志四録』を読んでいくとその中に、自分のとっておきの、今で言えばレジャーと言うところの解放は、「江戸の近郊に行って荒馬乗りをすることだ」と書いてあるんです。荒馬乗りとはどういうことかというと、ロデオですよ。

―― 確かにそうですね。

田口 ロデオなんて、よっぽど体力と馬術に長けていないとできませんよ。そんな裸馬にさっと乗って手なずけてしまうわけだから、力ずくでしょ。そういう人間ですよ、佐藤一斎は。

―― これはすごいで...
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