テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

システムの信頼性を維持するには冗長設計が不可欠

航空機事故ゼロをめざして(5)ルッサーの法則

鈴木真二
東京大学未来ビジョン研究センター特任教授/福島ロボットテストフィールド所長
情報・テキスト
アビ・ヴァールブルク(ドイツの美術史家)
2000年のアラスカ航空261便墜落事故は、水平安定板のスクリューに潤滑油が塗られていなかったという些細な原因によって引き起こされた。システム全体の信頼性は、個々の要素の信頼性の積み重ねに支配されている。ルッサーの法則と冗長設計の必要性について、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の鈴木真二氏が解説する。(第5話)
時間:07:22
収録日:2017/10/30
追加日:2018/02/06
≪全文≫

●一つの部品の不具合によって、大きな事故が発生しうる


 最近では、複雑化するシステムの安全をどのように確保するのかということも、大きなテーマです。デンゼル・ワシントン氏が主演したハリウッド映画『フライト』は、ある事故をモデルにした映画です。航空機の水平尾翼には「昇降舵」と呼ばれるかじが付いています。映画では、飛行中に昇降舵が操縦不能になり、真っ逆さまに機体が降下していきます。しかし、パイロットの機転で機体を反転させて水平飛行に戻し、さらに元へ戻して胴体着陸に成功するというストーリーです。映画にはモデルがあり、2000年に発生したアラスカ航空261便の墜落事故が参考になっているといわれています。

 メキシコ発の機体はサンフランシスコに向かう途中、水平安定板が固着してしまいます。機体は降下を開始し、ロールしながら宙返りを打って飛行していきました。映画とは違って、実際には姿勢を取り戻すことができず、制御不能のまま太平洋に墜落したのです。乗員5名と乗客83名の合計88名が犠牲になりました。

 この事故の原因は何だったのでしょうか。機体には、電動モーターで水平安定板を動かす仕組みが取り入れられていました。事故の原因を調査した結果、水平安定版を動かすスクリューに潤滑油が塗られていなかったということが判明しました。水平安定板の作動装置は、バックアップのないクリティカルな部品です。本来は、点検整備を完璧に行うことが要求されます。ところが現実には、点検時に指示されていたはずの潤滑油が存在しなかったということになります。

 つまり、こうした一つの要素、一つの部品の不具合によって、大きな事故が発生し得るのです。ここには巨大で複雑なシステムの信頼性をいかに管理するのかという課題が潜んでいます。


●システムの信頼性は個々の要素の信頼度の積み重ねに支配される


 航空機のようにたくさんの部品が組み合わさって使われる場合、そのトータルなシステムの信頼性を管理することが非常に重要です。そこには、「ルッサーの法則」が適用されます。ドイツの航空技術者であったロベルト・ルッサーは、戦後アメリカに移り、ミサイル等の信頼性解析に従事します。そこで、トータルなシステムの信頼性は、個々の要素の信頼度の積み重ねによって支配されているとして、次のような法則を導いたのです。

 例えば、一つの部品が90パーセントの信頼性を持っているとしましょう。これを10個結合すると、全体の信頼性は0.9を10回掛けた値になります。つまり、一つでは90パーセントの信頼性だったものが、全体では35パーセントにまで低下するのです。

 このことの恐ろしさを、次の2つの例で示したいと思います。90パーセントの信頼性とは、それを10個購入すれば、1つは壊れているかもしれないということを意味します。この部品を3つ直列につないだシステムを考えましょう。0.9を3回掛けることになりますので、信頼性は72.9パーセントになります。ところがその中に、30パーセントの信頼性しかない悪い部品が1つ入っているとしましょう。0.3という値が入ってきますので、全体の信頼性は24.3パーセントにまで落ちてしまいます。こうした劣悪な部品によるシステムの劣化が、非常に重要になってきます。


●システムの信頼性を維持するには冗長設計が必要だ


 これを避けるためには、スライドの右にあるような冗長設計が必要です。同じ機能を持つ要素を並列に並べて使用すれば、例えば1つの部品が壊れるなどして、その要素の信頼性が落ちても、トータルなシステムの信頼性を高く維持することができます。先ほどの水平尾翼の例では、こうした冗長性がありませんでした。つまり、並列しておらずバックアップがない部品の中に、一つでも劣悪な要素が入ってくると、システム全体の信頼性が著しく損なわれてしまうのです。

 かつてドイツの美術史家、アビ・ヴァールブルクは「神は細部に宿りたもう」と述べました。どのような小さな部品であっても、それが重要な役割を果たしている場合、システム全体の欠陥をもたらしかねないという注意が必要だということです。
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。