●航空機の製造工程にはさまざまな規格が要求される
次に、製造における安全性の確認についてお話しします。航空機の場合には、製造工程においても各種の規格が要求されます。さまざまな規格が用いられていますが、代表的なものの一つはデジュール標準です。これはISOのような公的な機関によって規定された規格です。品質保証規格としてはISO9001があり、これを航空宇宙分野に適用したものがJISQ9100という規格です。
また、こうした国際的な公的機関まではいかなくても、関心のある企業が集まったフォーラムが規格を規定している場合もあります。フォーラム標準と呼ばれています。例えば航空の分野では、特殊工程の認証を行うNadcap、アメリカの材料試験協会による材料の規格ASTM、そしてオートモーティブ技術者協会(Society of Automotive Engineers、SAE)の規格があります。
また、企業で使われている規格が市場で支配的になるという、デファクト標準と呼ばれるものも存在します。他にも、企業内だけで使われている企業標準、また、日本の場合は航空機製造事業法などに該当する国内法など、さまざまな規格が標準として用いられています。
●ハザードは潜在的な危険の源を意味する
運航における安全確保はどうなっているでしょうか。まずは航空機のライフサイクルのスライドをご覧ください。
製造された機体は、国の当局より型式証明を取得します。これは、その飛行機が安全であることを製造国政府が認めるものです。機体を運航する前には、国に登録しなければなりません。
また、運航する際には毎年、耐空証明という自動車の車検に相当する検査が必要になります。毎日の整備や、数年ごとの大きな整備もエアラインの中で行われます。空港に離発着し飛行する際には、航空交通管理を受けます。運航していく間に、事故も発生するでしょう。事故調査を行い、その原因を究明して改善につなげるということです。
運航における安全の考え方で重要になるのが、ハザード解析です。ここでは「蝶ネクタイ法」と呼ばれている手法を使って、ハザード解析の概要を説明します。
ハザードは潜在的な危険の源を意味します。ハザードが大きな損傷につながる場合、ハザードを引き起こすトリガーとして脅威が必ず存在します。したがって、どのようなハザードが存在し、それがどのような脅威によって損傷につながっていくのか、この一連の流れを分析しなければなりません。その上で、脅威を和らげるための予防策や損傷を防ぐための予防策を検討していく必要があります。
●ハザードによる空中分解・操縦不能を防止する
幾つかの例で、こういったハザード解析の実態を説明しましょう。構造に亀裂がある場合、これがハザードになり得ます。そのままでは大きな事故にならないかもしれませんが、これが危機時には何らかの影響で事故に結び付く可能性があります。
例えば、材料に欠陥があったり、製造時に何らかの欠陥があったり、あるいは使っている間にクラックが発生するという場合です。運用中に鳥にぶつかって、クラックが発生するということもあり得ます。
これらによってハザードが顕在化し、例えば空中分解し、操縦不能に陥ることが考えられます。ハザードはこうした大きな損傷につながり得るものです。これを防止するための策を検討しなければなりません。
例えば、材料の欠陥であれば、材料の材質や製品を管理する必要があります。そのため、航空機の材料は、ある一定の規定を満たしているものしか使えません。製造による欠陥を防ぐには、当然ながら製造資格が求められますし、また製造時の検査も要求されます。
使用時にクラックが発生することを防ぐためには、飛行前の点検と整備点検によって、これをいち早く見つける必要があるでしょう。鳥の衝突についても、鳥がぶつかっても大きなダメージが発生しないことをあらかじめ確認しておくために、開発段階で鳥衝突試験が課されます。
構造クラックが発生しても空中分解や操縦不能に陥らないように、防止策を講じなければなりません。クラックが進展しないように構造設計を行ったり、点検・検査によってクラックを発見できれば、空中分解を防ぐこともできます。操縦不能に関しては、破壊された機体であっても安全に飛行機を着陸させることができるよう、パイロットが操縦訓練を受けるということも有効です。
●操縦不能状態に陥った場合の、ハザードの要因を分析する
次に、一般的に飛行機が安全を阻害され、操縦不能の状態に陥った場合の、ハザードの要因と結果を分析してみましょう。操縦不能に陥る要因はさまざまです。
空気の乱れや機材の故障、あるいはパイロット等の操作ミスといったヒューマンファクターもあります。他の機体や障害物への衝突によ...