ヒューマンエラーと経営戦略
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
安全・安心というブランドは企業の大きな付加価値となる
第2話へ進む
現場に疲弊感が押し付けられる日本の安全管理の実態
ヒューマンエラーと経営戦略(1)お客さま目線の安心
岡田有策(慶應義塾大学理工学部管理工学科 教授)
会社内で安全とは何かをきちんと定義しないまま、現場の人間にとにかく安全対策を取らせるような指導法が、現在の日本では蔓延している。現場の疲労感を蓄積するだけの安全対策をやめ、お客さまの「利用したくない」を減らしていくことが安全対策なのだと、慶慶應義塾大学理工学部管理工学科教授の岡田有策氏は指摘する。(全10話中第1話)
時間:12分59秒
収録日:2017年9月1日
追加日:2018年1月22日
≪全文≫

●安全という言葉が、ちゃんと定義されていない


 慶應義塾大学理工学部管理工学科教授の岡田有策です。近年、企業は「安全管理」や「安全・安心」といった言葉を掲げて、様々な活動を行っています。しかし、安全という言葉がどのように理解され、どのような考え方で安全に向けた取り組みが進んでいるのかというと、現実を見れば、実は怪しいところがあります。一見、分かったような気になっていながら、安全という言葉が、ちゃんと定義されていないことがあるのです。

 もちろん、安全工学や安全学といった学問がありますし、安全という言葉の工学的定義は存在します。それは言い換えれば、事故の定義です。本来、事故とは、人間の生命・財産に損害を与えるものとして、定義されます。分かりやすく言えば、人が死ぬか死なないかということが、事故の根本にあるわけです。したがって、人が死ななければ安全だといっても差し支えありません。これが安全に対する本来の考え方の、ポイントです。

 例えば、学問上は、人が死ぬ事故が起こったときには、当然その分析をして対策を打ちますし、「事故リスク」も、人が死ぬ可能性や確率を考えて分析をするということです。こうした考え方で研究をしている段階であれば、非常に分かりやすいでしょう。人が死ぬということは、生命学的にはっきりと定義ができるからです。


●過去の事例からは将来のことは分からない


 ところが、日本が典型例ですが、次第に、「安全っぽい」ことが話題に上り、人が死ななかったとしても命に関わりそうなこと、あるいは生命・財産に影響しそうなことが問題になってきています。こうしたものを総称して、「安全に対する取り組み」が議論されるようになったのは、ここ20年ぐらいのことです。

 確かに、人の死亡する事故をどれだけ減らしていくかということでいえば、方向性としては何も間違ってはいません。しかしその反面、現場の人間からみた場合に、安全とは何かが見えなくなってきているという状況が生じています。

 例えば、ほとんどの企業で「安全とは何ですか」と聞くと、現場の係員レベルでは「事故がないことだ」という答えが返ってきます。さらに、「それでは事故とはなんですか」と聞くと、「例えば、これこれ」といったように、過去の事例で答えようとします。

 しかし、当たり前ですが、過去の事例からは将来のことは分かり...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「経営ビジネス」でまず見るべき講義シリーズ
ハラスメント防止に向けた風土づくり(1)ハラスメントの概要
増え続けるハラスメント…その背景としての職場の特徴
青島未佳
メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか
なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る
斎藤環
バブル世代の現実とこれからの生き方
バブル世代は「バブル崩壊世代」、苦労の先に見えるものがある
江上剛
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
本質から考えるコンプライアンスと内部統制(1)「法令遵守」でリスクは管理できない
「コンプライアンス=法令遵守」ではない…実例が示す本質
國廣正
東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?
経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」
田口佳史

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
内側から見たアメリカと日本(5)ヒラリーの無念と日米の半導体問題
大統領選が10年早かったら…全盛期のヒラリーはすごすぎた
島田晴雄
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司