●公共サービス的なレピュテーションを上げていく
質問 先生は以前、リスクを冒して三遊間のゴロを捕球する必要があるとおっしゃっていました。「良い仕事」をするためには、金銭ではないモチベーションとして、どのようなものがあるのでしょうか。
岡田 リスクを冒してでも、三遊間のゴロを取りに行くべきだとは、必ずしも思いません。これは、トップを含めて会社全体として、そういう社員と会社でありたいのか、それとも、下手なことをせずに堅実に商売をしたいのかによります。したがって、トップマネジメントの方針に沿うように、社員教育を考えていくべきでしょう。エラーについても、何をエラーと見るかは、その会社全体の考え方や立ち位置で決まってきます。
次に、「良い仕事」のモチベーションについてですが、正直に言えば、それをお金で見ても構いません。リスクを取りにいく会社のインセンティブは、お金でもいいと思います。というのも、リスクを取るのは、もうけるためですから。
しかし、リスクを取りにいけない、ある程度成熟した産業の中でどのように生き残っていくかを考えるなら、話は別です。確かに1960年代の高度成長期には、ちょっと先のゴロを取るだけで、給料が何倍にもなりました。今でもITベンチャーであれば、会社の成長と自分の給料がセットになっているので、おそらくここ5年ぐらいまでは、リスクを取りにいけば給料も上がるでしょう。ITベンチャーや戦略コンサルに勤める人のインセンティブは、金銭でも構わないわけです。
しかし、日本の8割の企業は、会社の売り上げもこれ以上上がらない中で、どれだけ現状の市場を維持していくかが問題になっています。だとすれば、そこでリスクを取りにいけと言っても、取りにいけません。取りにいった先に利益はなく、社員の給与上昇も見込めないからです。こうした状況では、金銭はインセンティブにはなり得ません。
特に今後考えなければいけないのは、公共サービスです。日本では、公共サービスが非常に重要な位置を占めています。これがなければ、産業は成り立ちません。しかし、公共サービスに対する評価は、極めて低くなっています。そこで働いている人たちがインセンティブを持つためには、お金ではない形で考えていく必要があります。ここで地域貢献や社会貢献が浮上するのです。
レピュテーションもその一環です。金がもうかるという、本来のレピュテーション・マネジメントではありません。例えば、「安心な街に暮らしているから、ここに住み続けたい」、「この街は道路も整備されているし、電車も走っている。病院もしっかりしているし、安心だ」といった、公共サービス的なレピュテーションです。これを上げていけば、人が住み続けたくなる街になっていくでしょう。結局、人が住んでくれることによって、利用者が出ますから、税金も利用料も入ってきます。そうすれば、公共インフラが支えられます。
おそらく今後は、民間企業も公共性が強くなってくるでしょう。もうけだけが全てではなく、みんなに使ってもらうサービスを提供することが重要になってきます。例えば、防災システムや携帯電話でもそうです。より公共性の強いサービスを考える必要が出てくれば、リスクを取るかどうかという世界とは違ってきます。
●社会還元を視野に入れないと、社会からリスペクトされない
岡田 半分はボランティア精神ですが、やはり民間企業です。給料のためではなく、社会のために仕事をする。あるいは、ここで仕事をさせていただいているのは、社会が認めてくれているからだと感じるように、自分たちの仕事を位置づける必要があります。社会還元を視野に入れておかないと、社会からリスペクトされません。そうなれば、「使いたくない」「利用したくない」という感情を持たれてしまいます。
例えば、中国やアフリカのような、いわゆる新興国であれば、こんな話をする必要は全くありません。「頑張ればもうかりますよ」で済む話です。しかし、成熟した社会の中では、いろんな人たちのために存在している企業として、自分たちだけがもうかればいいという考え方は取れません。個人も社会も、目先の利益だけをインセンティブだとするなら、おそらくスポイルされてしまいます。
人々が、ある程度の給料で十分だと思うようになってくれば、もう一歩進んで仕事をしていくためのインセンティブとしては、お金以外のものを考えないといけません。お金ではないものを持ってこないと、それぞれが埋め合わせできなくなっていくでしょう。みんなが一つずつ、お金ではないインセンティブを持つことによって、社会は成り立ちます。
自分がお金以外の理由で、1仕事を進めた。そうすれば、周りが10してくれた。このように、自分が仕事をしたから、鉄道も道路も病院もうまく回...