●IoTの時代の到来とエナジーハーベスティング
こんにちは。東京理科大学の山本貴博です。私からは、「ナノを制御して熱を電気に変える」というお話をさせていただきます。
昨今エネルギーの問題が新聞・マスコミ等で賑わっています。「熱を電気に変える」ということですが、私たちの身の回りには使われていない熱エネルギーがたくさんあります。これを電気エネルギーに変換することで、私たちの生活に役立てようという話をさせていただきます。
特に、小さな熱エネルギーを集める必要性がなぜあるのかというと、最近の時代背景にその理由があります。IoTという言葉をよく耳にするかと思いますが、まずIoT社会とはどういった社会なのでしょうか。15年ほど前の私たちの生活を思い返してみると、コンピュータがインターネット上でつながってきました。
現代はどのような時代かというと、コンピュータだけでなくテレビやゲーム、そういったさまざまなモノがインターネット上にのることによって、人と人がインターネット上でコミュニケーションをとるようになりました。いわゆる、“Internet of People”の時代です。
そして、今われわれが目指している社会であるIoT社会は何かというと、さまざまなモノとモノが直接情報を通信し合うことによって、より豊かな生活を実現しようという“Internet of Things”の社会です。
こういった“Internet of Things”という時代を実現しようとしたときに、どういった新しい技術が必要になってくるかというと、実はモノにセンサーを付けていかなくてはいけません。全てのモノにセンサーを付けていき、IoT社会を実現しようとすると、実は45兆個ほどのセンサーを毎年交換していかなければいけないことが試算されています。
この45兆個のセンサーを毎年交換していくのは技術的にも物質的にも無謀な挑戦です。これまでにない技術をここに導入することによって、45兆個のセンサーを動かしていこうというときに必要な技術の1つとして、身の回りにあるまだ使われていないエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が求められています。
これをエネルギーの収穫という意味で、「エナジーハーベスティング(energy harvesting)」といいます。今日はそのエナジーハーベスティングの中でも、使われていない熱エネルギーを電気エネルギーに変換する「熱エネルギーハーベスティング」の話をさせていただきます。
●熱を電気に変える「ゼーベック効果」とは
実は熱を電気に変える物理学は、1821年にトーマス・ゼーベックという物理学者がすでに発見しています。その原理を簡単に説明します。資料右上を見てください。ここに物質があり、この物質の両端の片方を温めて、片方を冷やします。そうすると、温めた方にいる電子の運動エネルギーが大きくなって、冷たい方に移動していきます。その結果、冷たい方には電子がたくさんいて、温かい方にはプラスの電気が残ることで、電圧が生じます。この電圧を利用していこうというのが「ゼーベック効果」、あるいは「ゼーベック発電」です。
この発電方式は非常に便利です。もちろんタービンを使った熱発電はありますが、駆動部があるために、騒音がしたり、装置自体が非常に大きくなったり、あるいは駆動部の故障等による修理があります。しかし、この熱電材料は駆動部がないため音もないし、メンテナンスもほとんど必要ありません。また、大きなスペースも取らないという利点があることから、今後のIoT社会の実現に向けて一つの要素技術になるのではないかと期待されています。
現状どのようなことができるのか、次のデモンストレーションを見ていただきたいと思います。
こちらの動画をご覧ください。手のマークのところに熱電素子を準備しています。そこを手で触れると、体温のみでプロペラを回すことができます。つまり、体温だけでモーターを回せるような技術がすでに開発されています。
しかしながら、今後IoT社会を実現していこうとすると、まだまだ必要な技術があります。例えば人体のような変形する曲面に熱電素子を付けようとすると、通常の個体材料では固くて接触できません。つまり、フレキシブルで柔らかくて変形する材料による新しい熱電材料が必要になってきます。
●カーボンナノチューブの構造とその応用
そういった材料としてわれわれが検討しているのが、日本で発見された「カーボンナノチューブ」と呼ばれる物質です。実はこの物質は特段珍しい物質ではなく、身の回りにある物質か...