●応用例1:水分子の表面散乱
例えば、(マルチスケール解析において)どんなことをやっているかというと、バルクでいえば先ほどお話ししたことですが、表面に分子が当たるとどのように散乱していくかということです。人工衛星を上げて、人工衛星の表面をうまくコーティングをしておけば、向こう側から飛んできた分子がうまく弾かれていきます。そうすると、そこのエネルギー交換がすごく小さくなるので軌道に長く留まることができるようになるという議論があります。
それがどうなっているかを表したのが下のグラフです。いろいろと解析すると、水分子がグラファイトに当たったときとシリコンに当たったときでは、実は反射の仕方が違うということが分かります。それを使って、先ほどのボルツマン方程式を解くというプロセスが1つ入ります。
●応用例2:水と界面の接触面積
それからもう1つとしては、分子動力学を使って水と界面の間の構造がどうなっているかが分かります。これはつまりその接触面積を考えるということですが、水と界面の間のポテンシャルが強いと、丸い形からべたっとした形に変わっていくというのが計算できるようになります。
これをうまくモデルにしておくと、表面上の水分子の挙動を連続体として計算するときに非常に役に立ちます。
●応用例3:燃料電池のマルチスケールシミュレーション
こうしたプロセスをいっぱいやっておくと、例えば最近いろいろなところで議論されている燃料電池のマルチスケールシミュレーションということができるようになるというわけです。
このように、量子力学を使ってポテンシャル関数を計算して、そこで第一原理的にどういう化学反応が起きるのかを計算します。さらにもう少し大きいところでは、燃料電池の中の構造をどのように分子が動いていくか、水がどのように拡散していくかを計算できるようになります。
そうすると、燃料電池の中で電気がどう起きてくるかということをフルでシミュレーションできるようになります。最初から連続体でこんなシミュレーターをつくろうとしても、それはできません。量子力学からスタートして、合理的に連続体にもっていくことでできるようになるのです。
これは中の構造を漫画(ポンチ絵)で示したものですが、このようになっています。この説明については、ここでは飛ばすことにします。
実際にナフィオン分子の膜があって、それが燃料電池の性能を決めているのですが、中で水やプロトンがどう動いていくのかをうまく合理的に計算する必要があります。例えば、左上の図のようにプロトンがずっと動いていくかどうか実際に計算してみると、実は水とプロトンがうまく結合して隣の水にプロトンが勝手に動いていくことが分かります。このナフィオン分子の中のプロトンが、プロトンホッピングという現象によって、非常に速くにある方向性をもって拡散していくことが分かるのです。
こういうことが分かれば、ナフィオン分子の中のプロトンの動きが計算できます。例えば以上のような使い方ができるわけです。
それから中に、MPLというマイクロポーラス層が拡散層として入っているのですが、中で水のガス、つまり水蒸気がどう拡散していくのかも、DSMC法というモンテカルロ法を使って、先ほどのボルツマン方程式で解くことができます。この界面でどういう反射があるのか、こういう構造の中をどのようにガスが動いていくのかを連続体として計算することはなかなかできません。しかし、先ほどのボルツマン方程式を使えば、これをうまく計算することができ、こうした実験の結果とピタッと合うことが分かります。
●応用例4:気泡のマルチスケール造
それから、これは由井先生がやっている話になりますが、小さい気泡があったとして、その気泡の周りに界面活性剤が付いているとどうなるでしょうか。左下の図にあるお化けのキャスパーみたいな白い模様は、小さな気泡の界面の位置を示しています。外側は水で、白い部分には蒸気が入っていますが、これは気泡です。そして、気泡の周りに界面活性剤がくっ付いています。これは、界面活性剤が付いているとどのくらい表面張力が変化するのかを計算することができるということです。
それから左上の図のように、気泡がずっと動いているとすると、この周りにどのように分子が吸着・脱離していくかという過程も計算すること...