●行動異常が現れてくると、介護困難になっていく
認知症の介護、および看護についてお話をしたいと思います。介護はプロが行うものもありますし、家族が行うものもあります。ここでは特に、家族の介護の視点を中心にお話します。
家族の介護を困難にさせる要因は、本人の記憶障害もありますが、「行動・心理症状」(BPSD)と呼ばれる、本人の不安や怒りっぽさ、多動、昼と夜の混同などの症状が大きいといえます。例えば、昼と夜を間違えるというものについていえば、介護する家族は仕事に行かなければならないため夜は寝たいのですが、夜に起こされるので、家族は頭に来てしまいます。こうした夜の行動異常の他にも、尿や便など排泄の失敗が起きてくると、家族はギブアップしてしまいます。こうしたことは、認知症の重度になりかけている入口前後で起こります。この状態になると、家族は介護困難になり、施設に入る判断をするようになります。
●介護の基本は「パーソンセンタードケア」である
それに対して、政府は「地域包括ケア」と銘打って、1日でも長く家で介護をするように働きかけています。2025年に向けて医療費や介護費用をなるべく軽減しようとしており、そのため、在宅療養型医療を受けながら「なるべく在宅療養を」と言っているわけです。
しかし、認知症に関していうと、今お伝えした通り、重度化したときの入口で、自宅介護が難しくなるという現状があります。そのため、この時点できっちり手当てをしていくことが重要です。薬を飲むことや、ゴミ出しのお手伝い、公的介護サービスを受けるなど、いろいろなことがあると思いますが、プロの手を借りることも非常に大事です。
また、介護の基本は一言でいうと、被介護者を中心とするという「パーソンセンタードケア」で、介護者を中心とするような「ファミリーセンタードケア」ではありません。ペイシエントやクライアントとも言われる、本人のパーソンセンタードケアが大事なのです。ケアにはさまざまな方法があるので、その点についても説明をしていきたいと思います。
●介護に薬が必要な際には、医師の判断が不可欠である
介護の基本は病気の理解です。まず、どのような症状にどのような介護をするかを考えなければなりません。例えば、記憶障害に対する介護はなかなか難しく、同じことを言うということに対し、腹を立てないことが介護のスタートです。症状を受け入れ、病気であると理解することが必要です。図にあるような、妄想、幻覚、抑うつ、無気力、暴力などについても、それぞれの仕方で対応しなければなりません。
コミュニケーションや非薬物療法で対応できるうちは良いのですが、対応ができなくなったら薬を使います。そこで注意しなければならないのは、薬の使い方です。強い薬を使うと、対応できなくなってしまった症状が改善することもあるのですが、転んで骨折してしまったり、死亡率が高まったり、ということも国内外で報告されています。薬を使う場合には、認知症のケアや医療に慣れた医師に受診することが、介護のポイントになるでしょう。
●行動・心理症状が出てきたら、慌てず症状と本人の意思を確認
先ほどお話しした通り、パーソンセンタードケアをするためには、本人がどのようなことをしたいのか、実際にどのような行動をしているのかを、聞いたり見たりすることが重要です。例えば、立ったり座ったりして落ち着かない行動を取っている被介護者がいるとします。それを介護者は困った症状だと認識することもできますが、本人は排泄をするためにトイレに行きたのだが、尿を失敗するかもしれないと思って行くことができず、結果的に立ったり座ったりしているかもしれません。そうした際には「トイレはこっちですよ」と案内すると良いでしょう。
しかし、これに関連して、家族が一番困るのは、3分たつとすぐにトイレに行きたくなってしまうような頻尿の症状です。これもある程度は仕方がないことですが、前立腺肥大症や過活動膀胱など、頻尿に原因があることもあります。その場合には適切な薬もあるので、泌尿器科に相談すべきです。
●介護がつらくなってきたら、認知症カフェで意見交換も
アルツハイマー病の経過を見ていくと、発病してから悪化するまでに12年ほどかかります。その中で、当初は物忘れや抑うつなど軽い症状から始まり、途中で幻覚、妄想、興奮、徘徊、暴力的な行動、などの症状が出てきます。このような行動・心理症状が増えた中程度の時期に、介護はとても大変になります。アルツハイマー病の人全てに行動・心理症状が出るわけではなく、およそ8割ほどであるといわれ...