●「男性更年期」という言葉を目にすることが増えた
皆さん、こんにちは。順天堂大学・泌尿器外科の堀江重郎です。今日は更年期、特に男性の更年期を考えてみたいと思います。
最近さまざまなメディアで、「男性更年期」という言葉を目にし、耳にすることが多くなってきているのではないかと思います。女性の更年期については、皆さんよくご存知でしょう。女性の生殖期間の終了、つまり月経周期の終了を閉経と言いますが、医学では閉経の前後5年を更年期と定義づけしています。
女性の方は更年期の間にいろいろな症状で苦しまれる場合が多いですが、閉経の前後5年でだいたい収まると言われています。生殖期は月経周期に伴って女性ホルモン・エストロゲンが上がったり下がったりしますが、閉経後はこのホルモンがずっと下がったままになるため、心身の変調を来すことが原因です。これが女性にとっての更年期です。
●男性の1次・2次性徴に、テストステロンが必要
男性の場合、男性ホルモン・テストステロンが体の中で非常に大きな働きをしています。まず、男性がおちんちんをつけてオギャーと生まれてくるためには、お母さんのお腹の中で、赤ちゃんが自分でこのホルモンをつくる必要があります。
具体的に言いますと、われわれの体の中にはX染色体とY染色体があります。女性はXが二つ、お父さんとお母さんの両方からXをもらいます。男性の場合は、お父さんからYをもらい、お母さんからXをもらうのです。ですからY染色体は、お父さんからずっと綿々とつながってきたものです。このY染色体があると、なぜかお母さんの体の中で、男性ホルモンがビューっと出てきます。なぜそのようなことが起こるのかは分かりません。もし分かったら、ノーベル賞三つ分くらいの大発見ではないかと思います。
もう一つは、思春期のとき、少年から大人の男性になるときに、このホルモンがブーっと出てきます。そうすると、筋骨隆々と言いますが、体の筋肉や骨がしっかりしてきて、男らしい体型になる。また、ひげが生え、下の毛も生えてきます。
これらをそれぞれ1次性徴、2次性徴と言います。これらのために男性にとって、男性ホルモン・テストステロンは非常に重要です。
●男性ホルモンが減るとさまざまな症状が出てくる
実はこのホルモンが、医学的なことだけでなく、社会的な面にも働くことを、前回お話しさせていただきました(10MTV収録:やる気に関係するホルモン「テストステロン」)。このホルモンは、社会に出て、自分が活躍したり認められると、非常に多く出てくるものなのです。
しかし、年齢とともに分泌量は徐々に減ってきます。もともと高い人も低い人も、どの方も少しずつ低下する傾向があると言われています。特に、ストレスや激しい疲労などによってこのホルモンの分泌が減ると、何となく体の疲れが取れなかったり、だるさを感じるようになります。いろいろとおっくうになり、体が太ってくることもあります。テストステロンは、筋肉をつくるのと同時に、脂肪組織の増加を抑える働きがありますから、このホルモンが減ってくると、お腹が出てくる、骨の密度が減ってくる、動脈硬化が進むなど、さまざまな影響が出てきます。
また、ほてりや発汗などの体調面だけでなく、メンタル面でもうつ気味になるのが女性更年期の一つの特徴ですが、男性も全く同じような症状になります。そういった理由から、男性更年期と呼ぶようになりました。
●女性更年期は、人生もチェンジする時期だ
女性の場合は、どの方も全員、これから赤ちゃんをつくれなくなる閉経の時期が来ますから、更年期は閉経前後5年と決まっていますが、男性の場合、医学的には時期が決まっていません。実際、男子更年期になる方は、40代から60代後半くらいまでいらっしゃいますし、全く起こらない方もたくさんいます。具体的には、アメリカの調査ですと、60代の2割くらいの方、70代の3割くらい、80代の方は半数程度が、男性更年期と呼ばれる症状を起こしていることが分かっています。
「更年期」という言葉を辞書で調べてみますと、意外なことに「人生をチェンジする」という意味があると書かれています。更衣室というのは、衣を改めるということですが、更年期は年が変わるだけでなく、ご自身の人生もチェンジするという意味があるのです。
女性の場合、更年期によって、一つは生殖活動を卒業するという大きな意味がありますが、ホルモンバランスで言うと、それまではエストロゲンの周期に従って暮らしてきたわけですが、エストロゲンが減ってきます。その代わり、不思議なことに閉経後、男性ホルモン・テストステロンが徐々に増えていきます。
実は、女性の体の中には、もともとテストステロンがエストロゲンの1...