●前立腺は、尿を切ると同時に精巣を守る免疫器官
皆さん、こんにちは。順天堂大学の泌尿器科医、堀江重郎です。
今日は、前立腺がんについてお話しします。これをご覧いただいている方の中には、ひょっとしたらご自身が前立腺がんになっているかもしれないと思われている方、あるいは現在治療されている方、血液検査などで前立腺がんの危険があると言われた方、ご家族に前立腺がんの方がいらっしゃる方など、さまざまな理由で心配な方が多いのではないかと思います。そこで今日は、前立腺がんを心配しなければいけない人とそうでない人についても含めて、広く前立腺がんの治療と予防の現状と将来についてお話ししたいと思います。
日常、われわれは大きく息を吸って肺の存在を意識したり、ご飯を食べて胃を意識したり、便をすることで直腸を意識したり、おしっこが溜まることで膀胱を意識しますが、男性が前立腺という臓器の存在を感じることはなかなかありません。前立腺を感じるとすれば、尿の最後を振り切るときです。このとき前立腺がきゅっと収縮して、尿を最後に出し切るために働いています。
前立腺は半分が筋肉、そして半分は甲状腺や副腎と同じような内分泌の機能を持っている非常に特殊な臓器です。体の一番深いところにあって、尿の切れの他に、もう一つ大きな作用があります。人間の男性だけでなく哺乳類のオスは全部そうですが、おしっこを出すところと精液を出すところが最終的に一緒になっています。非常に省エネタイプになっているわけです。この尿を出すところにばい菌が入ってきた場合、うっかりすると、精子を作る精巣まで侵入してしまうかもしれません。前立腺はこれを守るための免疫器官としても働いていると考えられています。
こういった原始的な免疫器官としては他に、喉にある扁桃腺があります。特に子どもの頃は口からさまざまな病原菌が入ってくる可能性があるため、扁桃腺がそれをブロックして、肺や胃や腸に行かないようにしています。前立腺は扁桃腺と同様に、次世代にDNAを伝えるために非常に重要な器官である精巣を守るために、精巣より下流にある部位でいろいろな病原菌を殺菌する機能を持っているのです。実際、前立腺から分泌される前立腺液には非常に高い殺菌効果があることが分かっています。
●脂肪摂取量が多いと、前立腺がんの危険が高まる
ところで、この前立腺にできる前立腺がんですが、現在先進国ではどの国でも、男性がかかるがんの中でナンバーワンになっており、日本でも最も増えているがんです。前立腺がんで亡くなる方は、残念ながら今後15年ぐらいで2倍から3倍に増えるだろうと言われています。アメリカでは、現在だいたい6人に1人の方が前立腺がんになっており、がんで亡くなる方のおよそ10人に1人が前立腺がんです。男性にとっては脅威の病気です。
日本やアジアの国々では、これまで欧米に比べて前立腺がんが少ない状況でした。その主な理由は食生活だと言われています。例えば、ハワイの日系2世の方々は、ちょうどアメリカ本土と日本の前立腺がんの発生率の中間くらいだということがわかってきています。彼らはDNAとしては日本人ですけれども、食生活などは欧米風です。前立腺がんはまず食生活が非常に大事なのです。
前立腺がんの一番のリスクとして従来から知られているのが、脂肪です。過去60年間で日本人に最も増えているのが脂肪の摂取量です。1970年代から80年代にかけて、日本人の食生活のカロリーはぐんと増えましたが、実は最近、摂取カロリーそのものはどんどん減っています。しかし非常に興味深いことに、糖尿病はうなぎのぼりに増えているのです。この現象に脂肪の摂取量が大きく影響していると言われています。同じように、前立腺がんや乳がんの増加にも脂肪の摂取が大きく関係しているのです。脂肪の中でも動物性の脂肪、つまり脂肪を含んだ肉、油で調理した料理、脂肪分が調整されていない牛乳などが特に前立腺がんの危険を高めます。
一方、アジアの国々でこれまで前立腺がんが少なかった理由の一つと考えられているのが、大豆です。欧米では、大豆が食生活に登場してくることは極めてまれですが、われわれアジア人は大豆から多くのたんぱく質を摂取してきました。大豆には、前立腺がんの発症を抑制する効果が認められています。同様に、われわれはカレーのスパイスに含まれているクルクミンという機能因子も前立腺がんを抑えることを突き止めています。また、わさびなどにも抑制効果があることが分かってきています。アジアの食生活には、この病気を抑える作用があるのです。
●前立腺がんを発見するにはPSA値を測ればよい
では、前立腺がんを早期発見するにはどうしたらよいかといえば、非常に簡便な方法として、血液中に含ま...