選択する医療~後悔のない判断のために
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「エビデンス重視主義」が患者に押し付ける理不尽とは?
選択する医療~後悔のない判断のために(1)エビデンス重視主義
堀江重郎(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授)
医療行為における「インフォームド・コンセント」は今や法律でも明文化されている。しかし、高度化する医療について、患者や家族が医療者から「正しい情報を得た上で合意」するのは、そうそう簡単なことではない。そのために、現場の医師たちはどのような努力を重ねているのか。順天堂大学医学部大学院医学研究科教授・堀江重郎氏が、数々の事例を挙げながら解説する。(全2話中第1話)
時間:13分18秒
収録日:2016年6月27日
追加日:2016年9月4日
≪全文≫

●複数の医師が治療方針を考える「診療カンファレンス」


 順天堂大学の堀江です。本日は、医療の判断をどのように進めていくかということについて、少し考えてみたいと思います。

 病院に入院されている患者に対しては、どの診療科もそうだと思いますが、定期的にスタッフ全員で相談をする「診療カンファレンス」を開きます。カンファレンスで討議された内容をカルテにきちんと記録することが、一つのルールとなっています。最近では電子カルテが主体です。

 一般のクリニックであれば、クリニックの先生が診察も判断も行うわけですが、大学病院をはじめ、がん拠点や救急医療に指定されているような大きな病院では、複数の医師が相談して、判断した結果をそれぞれカルテに書きます。一人の患者の問題にどう対応するかについて総合的な見解を持つことが医療者の重要な作業だと認識して、われわれは取り組んでいます。


●82歳の女性は、なぜ抗がん剤を希望したのか


 実は先日のカンファレンスでは、入院していた82歳の女性についての報告が若い医師からありました。報告の内容によると、がんが体内で転移を起しており、すでに2カ月間の抗がん剤治療を受けてきたのです。これまでに2回受け、3回目を受けようとするタイミングで、抗がん剤の副作用による肺炎を起こされた、ということでした。

 そこで私は、「どうしてこの患者さんは、抗がん剤治療を受けたのでしょうか」と若い医師に質問しました。それは、転移があったとしても患者がすぐ悪くなるような状態だったかどうか、そこを確認するためでした。82歳という高齢であれば、抗がん剤に対する抵抗力も低い可能性があります。ですから、なぜ、どういったいきさつで、あるいはどういう判断が医療者と患者本人の間でなされたかを聞いてみようと思い、質問したのです。

 帰ってきた答えは、「実は患者さん自身が、強く抗がん剤治療を希望されたのです」ということでした。私が重ねて「どうして希望されたのですか」と質問すると、若い医師はそれに答える材料を持っていませんでした。


●患者の意向に疑問を持つ医師、持たない医師


 この医師としては、転移があるがんの治療後に「転移があります。転移に対しては、抗がん剤治療を行うことができます。しないこともできます。どうしますか」とお話をしたときに、患者さんから「私はぜひ抗がん剤治...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「健康と医療」でまず見るべき講義シリーズ
1分チャージ! 新・エクササイズ理論
たった1分で効果を上げる新運動理論と攻めのダイエット
堀江重郎
認知症とは何か(1)疾患の種類と対応
多くの認知症の原因は「脳のゴミ」の蓄積
遠藤英俊
最強の臓器「皮膚」のふしぎと最新医療(1)かゆみのサイエンス
「かゆみ」の正体を科学する!最新研究で迫る皮膚の仕組み
椛島健治
和食の深い秘密~なぜ身体に良いのか(1)和食の特徴と日本人
日本人は地球上最もベジタリアンだった?和食の7つの基本
小泉武夫
ウイルスの話~その本質と特性(1)生物なのか、そうではないのか
きわめて特異的な「ウイルスと宿主の関係」
長谷川眞理子
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(6)東條内閣で行われた行政改革
悲惨な末路につながった東條英機内閣での兼職と省庁再編
片山杜秀
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
日本人が知らない自由主義の歴史~前編(1)そもそも「自由主義」とは何か
消極的自由と積極的自由?…なぜ自由主義がわかりづらいか
柿埜真吾