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かつて猛威を振るったエボラ熱のウイルス対策に学ぶ

エボラ熱の流行と対策について

堀江重郎
順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授
情報・テキスト
エボラウイルス
写真提供者:Frederick A.Murphy
アフリカの3国で猛威を振るい、世界的流行の可能性が語られているエボラ熱。エボラ熱とは一体どのような病気で、なぜ感染が拡大しているのか。そして、私たちはどう対処したらよいのか。医師・堀江重郎氏が教えてくれる。
時間:14:05
収録日:2014/11/07
追加日:2015/01/12
≪全文≫

●アフリカの3国でエボラ熱が猛威を振るっている


 皆さん、こんにちは。順天堂大学・泌尿器外科の堀江重郎と申します。今日は、エボラウイルスと感染症について考えたいと思います。私自身は、外科の中でも腎臓や前立腺といった泌尿器の専門医で、エボラウイルスや感染症は専門ではありませんが、一人の医師として、最近のさまざまな報道を見て感じたこと、それからその中で語られていないことについても少し考えてみたいと思っています。

 現在、ギニア、シエラレオネ、そしてリベリアの3国で、非常に多くの方がエボラ熱に罹患されているという痛ましいニュースが日々流れています。エボラウイルスは極めて致死性が高く、暴露することでほとんどの方が亡くなってしまうため、厳重に防護をして治療・看護に当たっていることも報道されています。

 また現在、スペイン、フランス、そしてアメリカ・ニューヨークで、アフリカで治療に従事された医療者の中で不幸にして発症された方が確認されていることも大変問題になっています。アメリカのダラスで、アフリカの患者さんが直接アメリカに入国し、しばらく地域で生活された後に発症したことも大きく報道されました。


●死亡前後の体や体液に触れると感染可能性が高い


 このエボラ熱は、以前は「エボラ出血熱」と言っていました。エボラ熱はウイルスを媒介にして感染します。アフリカ・エボラ川の流域にある洞窟の中に行かれたお子さん、そして大人の方が非常に激しい症状で亡くなり、それらの検体から分離したウイルスということで、エボラウイルスの名前が付いています。

 このウイルスを保持している動物として、コウモリが分かっています。エボラ川の洞窟の中にもたくさんのコウモリがいました。また、エボラウイルスは一種類だけでなく、何種類かあります。例えば、サルの仲間にだけ感染して人にはかからないウイルスや、豚にかかるウイルスなどもあります。

 今回流行しているエボラウイルスは、正確にはザイール型エボラウイルスと呼びますが、人から人に感染するものです。通常、潜伏期は2週間程度で、激しい嘔吐や下痢を伴う重症のインフルエンザのような状態になり、最終的には体内の血液が固まらなくなって、血管や血液機構が破たんし、いろいろな場所から出血して、大変ミゼラブルな症状で亡くなっていくことが知られています。

 また、病状が進行しますと、体内のありとあらゆる細胞にエボラウイルスが増殖します。特に、亡くなる直前や亡くなった後の患者さんの体や体液、つまり血液や尿、精液などに触れると、感染の可能性が高くなります。


●日本や欧米では、標準予防策が義務づけられている


 残念ながら、今流行している地域の衛生状況は、わが国や欧米と比べると、非常に劣っている部分が多いと言われています。

 例えば現在、日本のほとんどの病院では、患者さんに接するときは手袋をします。患者さんの中には、手袋で触られることが嫌な方もいらっしゃると思うのですが、これはその患者さんに対してだけでなく、患者さんから患者さんに病気をうつさないことも目的にしています。

 今、全ての病院では標準予防策というものが採られています。患者さんに接触するときにはゴム手袋を使い、1回ごとに捨てる。そして、触れる度にアルコールを含んだ殺菌能力のある薬品で手指を消毒することを徹底して行っているのです。

 皆さんも、「院内感染」という言葉をご存じだろうと思います。たまたま入院されていた患者さんに、他の患者さんの保持していた細菌やウイルスがうつってしまうことです。例えば、外科手術を受けた後に院内感染をしてしまい、傷が治りにくくなるケースや、がん治療などで体が弱った高齢者の方が肺炎などの感染症を起こしてしまう日和見感染のことをお聞きになったことがあるかもしれません。現在、世界中の医療が進んだ国では、院内感染を起こさない標準予防策が第一に義務づけられています。


●手袋なしでの治療が、感染拡大の原因の一つでは


 多くの方が、ゴム手袋の着用は当たり前でしょうとおっしゃるかもしれませんが、実は30年前、私が救命救急センターで仕事をしていた頃は、手袋をして診療する方は、極めてまれでした。

 運ばれてくる患者さんの中には、肝炎などのさまざまな病気を持っている方がいますから、私はその頃から手袋を使っていましたが、そうすると先輩から「そんなもったいないことをするな」とか、「救命救急センターで、1年素手で働いていれば、いろいろな病気の抗体を手に入れることができる」ということまで言われたことがあります。

 また、昔は産婦人科の先生が、お産のときに素手で分娩に当たっていました。当然妊婦さんの中には肝炎ウイルスをお持ちの方もいらっしゃいますから、実は多くの産婦人...
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