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●「超高齢」日本の医療費は、今後どうなる
皆さん、こんにちは。順天堂大学医学部の堀江重郎と申します。
今日は「ヘルスケア2.0」といったかたちで、新しい健康管理や医療の方向性について考えてみたいと思います。
皆さんご存じのように、日本はすでに世界で最も長寿国、言い換えれば最も老化の進んだ国として、超高齢化が進行中です。今の時点で国民の3分の1は60歳以上ですが、あと10年から15年経つと人口の4分の1は75歳という大変な時代に突入していきます。同時に医療費の方も、現在のGDPをそのまま医療費に持っていっても足りない事態になってきます。
日本の医療費自体は、GDPの10パーセントにはまだ到達していないので、OECD(経済協力開発機構)加盟の他の国々に比べると、かなり努力はしています。その多くの部分は、医療従事者の犠牲に支えられている面もありますし、個々のマネジメントは非常にうまくいっています。しかし、医療コスト全体で考えると、やはり総額としては相当大きいものになっていきます。
●医療の進歩に伴い、治療モデルが多様化
病気や医療に対する従来の考え方は、調子の悪くなったところを治してもらう「ブロークン・アンド・フィックス・モデル」で、これがずっと中心でした。一番大きいものは救急医療だと思いますが、けがをしたから治す、あるいは脳出血に対する緊急治療をする、というようなモデルです。
しかし、医療の進歩した現在では、やや「おせっかいな医療」とも言える新しい医療モデルが広がっています。血圧や高コレステロール、糖尿病などで、より重篤な病気に対するさまざまなリスクが分かってきたために、早期治療が展開されているのです。
医療がどうしても必要なケースは、例えば心臓が止まった場合などですが、何が何でももう一度動かすようにしないと、当然死に至ります。しかし、血圧が少し高めだったり、早期のがんが発見された場合は違います。早期がんは、直ちに生死に関わるものではありません。しかし、治療に入るとなると、それに伴って何らかの副作用や合併症が起こるかもしれません。そこで、いろいろな話し合いが必要になってくる。それが、今「インフォームド・コンセント」と呼ばれているものです。
インフォームド・コンセントとは、患者さんあるいはご家族と医療者との間で十分に契約を確認し合うことを指します。しかし、医療の最初の原則としては、インフォームド・コンセントといったことはなく、緊急事態への速やかな対応が求められる。おそらく医療というものは、こうした幅の中で動いていると思います。
●フィットネスクラブの動向が10年で変化
そういう中で健康管理を行うことについて、われわれはこの50年から60年にわたって学んできました。例えば運動をすることも、従来はレジャーとして考えられていましたが、現在では健康管理に非常に重要な方法と位置付けられていることを知らない方はいないだろうと思います。
最近、面白い統計が総務省から発表されました。わが国におけるフィットネスクラブの動向についてです。施設の数は、ここ20年来ずっと右肩上がりで伸びてきました。しかし、一人一人がフィットネスクラブで使うお金はそれほど増加しておらず、一定のところで抑えられています。また、フィットネスクラブの利用者層についても、興味深い傾向が出ています。この10年ぐらいの間に65歳以上の女性が増え、逆に20~30代の人は減っているのです。
定期的に運動する人の構成の変化は、最近話題のトマ・ピケティの格差論ではありませんが、若い人が減り、むしろ65歳以上が増えている。なぜそうなのかは大変興味深いことだと思います。また、男性と女性の対比では、女性の方が健康意識が高いことの反映もあるのかもしれません。
●健康づくり行動と医療・健康情報の連携は?
さて、ジムに通ってトレーニングをする場合、トレーナーに付いて種々のプログラムをこなす人もいますが、おそらく一般的には自分の好きなエクササイズと主に取り組む人がほとんどでしょう。ジョギングをしたり、水泳をしたり、筋トレをしたりと分かれていると思います。
私もジムに通っていますが、そこでは2週間ぐらいさぼると女性から電話が入ります。非常に緩いかたちですがインセンティブがあるので、「ああ、いかん。また行かないといけないな」と感じてジム通いを続行できています。
このような個人に応じたプログラムの提供や医学面を取り入れた管理、あるいはそれらの情報をスマートフォンやSNSを通して管理する取り組みは、日本ではまださほど普及していません。こうしたサービスを取り入れた施設や、参入している企業も、まだまだ少ないのではないでしょうか。


