●飽食の時代に必要な3つの「選食」の提唱
皆さん、こんにちは。順天堂大学の堀江です。本日は「飽食から選食へ」ということで、選食というのは新しい言葉なのですが、新しい食生活ということを考えてみたいと思います。
いわゆる飽食の時代、世界で20億人以上の方が肥満ということが社会的に大きな課題になっています。また、2025年までに世界の成人の5人に1人が肥満になる可能性があるとも言われています。そしてそのうちの3分の1はBMI、いわゆる体格指数が35と、非常に肥満の程度が激しくなると予想されています。
この飽食の時代の社会的な問題として、栄養の偏り、偏食、そして栄養学知識の欠如があります。また、現在1人で食事を摂るという方が、これは年齢を問わず、お子さんから高齢者まで非常に増えています。そして生活習慣病の増加です。また若い女性のダイエット志向によって、非常に痩せた女性が、特に日本で顕著になってきていますし、高齢者では低栄養という問題も大きくなってきています。
この飽食の時代、これが果たして持続可能かということも大きな問題です。新型コロナウイルス、あるいは未知の感染症が今後も発生する可能性、またウクライナのような予期せぬ戦争の勃発、そういったことによる食糧危機も予想されますし、異常気象がますます世界的に大きな問題となっています。また、穀物も不足する可能性も出てきます。人口の増加する地域では、持続的な飢餓の問題も多いと思います。
そこで、自分に本当に必要なものを食事の量、質ともに見定めて摂取するということで、私はこの「選食」という言葉を提唱したいと思います。
「(普段あなたが)どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言いあててみせよう。」と言ったのが、いわゆるフランスのグルメであるブリア=サヴァランです。
これを選食ということで考えてみますと、食に多様性を与え、また程よい制限をするということです。食事の質と量を選び、自分に合った食を選ぶことは、食事の価値を選ぶということにもなります。そして、食を楽しむことは食事というオケージョン(時)を選ぶということになります。
●「旬」の喪失…同じ食材でも栄養価が減少している実態
最初に、食の多様性、そして程よい制限というお話をしたいと思います。
まず、やはり旬の食材を選ぶことは、誰にとっても一番食事にとって重要だと思われるかもしれません。
さまざまな旬の食材です。
特に日本では、非常に多様な食を楽しむことができるのですが、注意したいことがあります。今は1年中同じクオリティの野菜が手に入ります。ゴーヤはスーパーマーケットに行くと正月から夏までいつでも入ってくるのですが、旬ということが少しずつ失われてきています。
これは栽培の方法にもよりますし、もう1つは野菜を食べやすく、いわゆるクセをなくすように改良されてきています。あるいは全体的に甘みが多くなってきているので、実は栄養素も少なくなっているという現状があります。
また化学肥料を多く使っています。それも栄養価が下がっていく大きな原因になっております。特にヨーロッパでは、有機農法がスタンダードになってきているのですが、実は日本では、本当の意味での有機農法はまだまだ少ないのが現状です。
旬の野菜は、同じ野菜でも本来栄養価が高まる時期であって、その旬の食材を取るということがわれわれの体にとっても非常にいいといわれています。
このスライドでは、野菜の栄養価が減っているということをお示ししています。例えばニンジンを摂ってビタミンAを取れる。目にいいわけです。あるいはビタミンBは疲労を回復する物質ですが、アスパラガスから取れます。ビタミンC、これはキャベツから取れます。そしてホウレンソウは、鉄分が取れるということがいわれてきたわけです。
しかし、1950年の栄養価と、それから65年たった2015年を比較しますと、例えばビタミンAは8割も減ってしまっています。ビタミンBは、アスパラガスも半分になって、キャベツのビタミンCも半分になっています。そしてホウレンソウの鉄分に至っては、もう95パーセント減ってしまっていることから、ホウレンソウを食べて鉄分を摂ろうということがもうまったく当てはまらないという状況になってきています。
●腸内細菌の多様性が健康を支える
...