●ユネスコ無形文化遺産――多様な食材や会食の慣習が評価される世界の食文化
最後の話題として、食を楽しむ、時を選ぶということを挙げさせていただいております。
五感を使って食を楽しむということはやはり人生の楽しみの非常に大きな部分を担っていると思うのです。食材の多様性、あるいは天然に近い食材の生の食感です。そして、そういうことが免疫やストレスホルモンにも刺激を与えてくるということがいわれていると思うのです。
ここでユネスコの無形文化遺産となっている世界の料理というものを考えてみたいと思います。最近、日本の和食もユネスコ無形文化遺産になったということでご存じの方も多いと思うのです。
地中海料理は、どんな特徴が無形文化遺産になったかといいますと、1つはオリーブオイル、野菜、果物を毎日たくさん摂っているということです。魚中心の食事だということです。そして、穀類、豆類、チーズ、ヨーグルト、ワイン、こういった非常に多様な、いわゆる産業社会の中においても食の多様性が保たれているというのが1つのポイントです。
もう1つの大きなポイントは、家族の健康、生活の質、より良い生活へ高めるための料理だと、この地中海料理を定義していることです。これは適量のワインを交えてゆっくりと、コミュニケーションをとりながら摂る食事スタイルだとユネスコでは認定をしているわけです。
フランス(では食事)が当然のことながら無形文化遺産になっているのですが、これはなんとガストロノミー(美食術)ということで、何の種類の食材かということではないのです。もうフランスで食事をするということが無形文化遺産であり、美食だということなのです。
これは、フランスでは食事が、出産、結婚、誕生日、成功、再会といった個人や集団の生活の最も大切な時を祝うための社会的な慣習ということです。社会的な慣習ということが無形文化遺産だということになります。ですから、特定の食事ではなくて、よりおいしく食事をする慣習、プラス関連するノウハウです。自然の恵みとの調和とか、料理とワインのマリアージュとか、食器のセッティングであるとか、マナーとかです。これはフランス人のアイデンティティの一部だといい切っています。
ですから、からだにいいとか、おいしいという内容よりも、親しい人たちと喜びを分かち合う時間、食卓で過ごす時間が人生においても重要だということです。
そのほか、この世界文化遺産に認定されているものとしては、韓国のキムチの製造です。それから面白いのはトルココーヒーです。これはコーヒーそのものプラス、コーヒーの淹れ方です。トルコは水出しコーヒーが有名です。あるいはポットやカップなどの道具です。そしてコーヒーハウスで情報交換するという慣習も文化遺産になっています。
グルジアという国はワインの発祥の地といわれているわけですが、伝統的な壺を使ってワインを製造する方法です。グルジアのワインというのは非常に濃厚で、甘いワインですが、このワインの製造法が認定されています。
フランスの美食術、そして地中海料理、メキシコではトウモロコシ、豆、唐辛子を基本として、祭礼、儀礼と深く結びついた伝統料理といわれています。
●自然を尊重し、食材の「うまみ」を引き出す和食
では、日本の和食ですが、これは日本人の伝統的な食文化が認定されているのです。ですから、お寿司がユネスコの文化遺産というわけではありません。これは「自然の尊重」という日本人の精神を体現した、生産から消費に至るまでの食に関する社会的慣習というように謳われています。
少し細かく見てみますと、非常に表情豊かな自然が広がっているわけですが、各地で地域に根ざした非常に多様な食材が使われ、またそれを生かすための調理技術、調理道具、さまざまなものがあるということです。そして、一汁三菜を基本とする食事スタイルが栄養的なバランスを保てるのです。
この和食の中では「うま味」を上手に使うということで、動物性の脂肪分の少ない食生活を実現しているということです。これが日本人の長寿、あるいは肥満防止につながっているだろうということです。
また、自然の美しさ、季節の移ろいを料理で表現するということで、これもさまざまな器に合った食事を楽しむということがあると思います。
そして、年中行事と密接に関わっているということです。これは他の世界文化遺産に似ていますが、家族や...