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週末の寝だめでは睡眠負債は取り返せない…驚きの実験結果

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(3)「睡眠負債」の考え方

西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
概要・テキスト
2017年に流行語大賞にノミネートされた「睡眠負債」だが、その歴史は長い。睡眠不足は無自覚のまま蓄積され、パフォーマンスを低下させるだけでなく、いろいろな疾患リスクを引き起こしていく。「寝だめ」を実行している人のほとんどは、貯めているのではなく、貯まった負債を返しているのが現実だという。(全7話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:18
収録日:2021/06/23
追加日:2021/11/04
カテゴリー:
≪全文≫

●自覚がない間に蓄積されている「睡眠負債」


―― 次に先生が提唱された「睡眠負債」の考え方についてお聞きしたいと思います。睡眠負債というのは、どういう考え方でございましょうか。

西野 私が提唱したというよりも、スタンフォード睡眠研究所創設者のウィリアム・C・デメント先生ですね。シカゴ大学の生理学教室でレム睡眠を発見されたうちの一人なのですが、当時は医学生で、1963年にスタンフォードに移られました。残念なことに昨年(2020年)91歳で亡くなられましたが、レム睡眠の発見をはじめとした睡眠学に貢献されたので、アメリカでは「睡眠医学の父」と呼ばれています。

 デメント先生は、慢性の睡眠不足が知らない間に積み重なって借金のように簡単には返済されない、というようなことを提唱されました。これには概念だけでなく、いろいろなデータがあります。

 例えば有名な実験として、8人の被験者を用いて1990年代に行われたものがあります。彼らはいずれも毎日7.5時間寝ていて、自分の睡眠には問題がないと思われていた人ばかりでした。実験は、彼らを毎日無理やりベッドに14時間入れるというものでした。

 どんなことになったかというと、最初の日は13時間眠れた。次の日も13時間寝ます。ところが、毎日続けると、それほど長くは寝られなくなり、1週間たった時点の睡眠は10時間ぐらいで、ベッドに行っても4時間は起きているようになりました。それを続けていくと、さらに睡眠時間は短くなります。この実験では3週間たったときに8.2時間ぐらい寝るようになって、そこからは増減しなくなりました。

 つまり、その実験で分かったのは、8.2時間がその人たちの身体が生理的に要求する睡眠時間だということです。普段はそれより毎日40分ぐらい短かかった。何週間か何ヶ月、場合によれば何年も、身体が必要とするより短い睡眠時間で生活してきたため、それを完全に返すまでに3週間かかったという話です。


●負債にはなっても預金はできない睡眠の特質


西野 睡眠負債によってパフォーマンスが落ちるのはもちろん分かっていたのですが、いろいろな疾患リスクも高くなりますので、身も心も破滅するということです。

 ここでもう一つ大事なことは、そういう人はあまりいないとは思うのですが、この実験で3週間たった後と同じように「十分な睡眠がとれている」という人についてですね。そういっ...
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