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「寝ないで頑張る」日本の経済損失は世界一

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(4)仕事と睡眠の関係

西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
情報・テキスト
今回は、仕事と睡眠の関係を考えていく。結論からいうと、「24時間働く」ことは、百害あって一利なし、なのである。ある調査によると、6時間睡眠を2週間続けた脳は、2日徹夜したのが同程度に能力が落ちている。以前なら常識だった仕事と睡眠の関係は今、大きな変革のときを迎えている。(全7話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:14:54
収録日:2021/06/23
追加日:2021/11/11
ジャンル:
≪全文≫

●アブセンティーイズムとプレゼンティーイズム


―― 西野先生、それでは「仕事と睡眠の関係」ということで、お話をうかがいたいと思います。

 仕事によっては、例えば夜勤のシフトがあったり、日勤と夜勤を繰り返したりするような仕事もあります。また、きちんとした仕事をするためには睡眠が大事だというのは間違いないところです。仕事をする人たちが睡眠について、どのように考えればいいのかというところをぜひ教えていただきたいと思います。

西野 そうですね。一つは、やはり十分な長さで質のよい睡眠をとらないと、仕事の能率が上がらないということは、現在いわれています。能率だけではなく、ちょっとしたことでいらいらする、ミスももちろん増えるということになります。

 それで、最近よく言われるようになった言葉に、「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」があります。以前は、仕事の能率に関連して欠勤や早退が注目され、それらの対策としていろいろなことを考えるのが大事だと思われていました。

 しかし、人件費からすると、仕事には出てきているけれどもろくに仕事をしていない、あるいは能率が上がらない、あくびばかりして目をこすっていて、集中力もない状態のほうが、全体の生産性に対して大きな影響を与えます。その原因の一つとして、やはり睡眠が非常に重要だということが、特にアメリカで分かってきています。


●アメリカでは24時間以上睡眠を取らずに運転すると刑事罰になる


西野 極端な話をすると、お酒を飲むと判断力や敏捷性が低下してくる。例えば日本では、血中アルコール濃度0.05パーセント(呼気1リットル当たりのアルコール量0.25ミリグラム以上)以上の飲酒運転をすると免許取消になるはずですが、そのときに反応性がどのぐらい低下するかということは、検査で分かります。

 シンプル・リアクション・タイムに近いものですが、これが睡眠の場合は、より退屈に作ってあります。タブレットに○(丸)が出たら、押す。それを5~10分ランダムに続けるので、普段の眠くないときでも退屈になるような検査です。免許取消になるほどお酒を飲んだときには、飲んでいないときよりも反応性が20パーセントぐらい落ちるとします。この検査を睡眠を取らない状態に当てはめてみます。例えば、夜寝るというときから何時間連続して起きていると、免許取り消しになるような飲酒運転と同じ状態になるかですが、18時間以上ということで、つまりそのときには飲酒運転のときと同じぐらい(反応性が)低下しているのです。

 そうした中、アメリカのニュージャージーでは、マギーさんという女子学生が高速道路を走行中に、連続して30時間寝ていないドライバーの運転する車に横から衝突されて即死になりました。これは1990年後半でしたが、ニュージャージーでは、寝なくて運転したところで、それを罰則する法律がないということで、結局罰金100ドルぐらいで収監もされずに刑事罰が問われませんでした。

 この後、その母親が法律家に働きかけ、数年かかりましたが、24時間以上睡眠を取らずに運転した場合、刑事罰になるということになりました。その背景には、そういったこと(飲酒運転や十分な睡眠を取らずに運転)が日常行われているという状況があるのです。

 (前回)睡眠負債の話もしましたけれども、個人差があるので1日6時間ぐらいの睡眠で充分な人もいます。しかし、7~8時間必要な人が6時間ぐらいの睡眠を2週間ぐらい続けると、2日間徹夜しているのと同じことになります。2日間徹夜というと約48時間なので、先ほどの例えば「(反応性は)飲酒運転と同じ」という状態を通り越しているということです。


●「寝ないで頑張る」経済損失は日本が世界一


西野 そういったことで、仕事上ではパフォーマンスに問題が出るし、それだけではなくいろいろな疾患リスクが高まるので、会社経営者としてもそういった認識が必要だということになってくるわけですね。

 最近は健康経営についての認識などが高まってきましたが、高度成長期を経験してきた上司などは、今でも「自分は寝なくても平気だ」ということにとらわれ、部下も同じように思われていて、自分同様、睡眠時間を削って働け、などというようなこともあります。そういったことであれば、マイナスの要因のほうが大きくなってくると思います。

―― まさに「寝ないで頑張る」文化というのは、もう見直していかなければいけないということですね。

西野 そうです。そういった産業事故というような、睡眠障害を適切に診断治療しないためにこうむる経済的損失についても算出されています。それも、スタンフォードのデメント先生が、アメリカの国会から調査依頼をされ、「Wake Up America」という運動で、全国キャラバンのように2年ぐらい各地を回り、...
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