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シンデレラタイムと睡眠の関係、流布する歪んだ情報に注意

「最高の睡眠」へ~知っておくべき睡眠常識(5)睡眠における性差

西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
情報・テキスト
睡眠に性差はあるのだろうか。人間の場合、その影響は生物学的側面より社会文化的な側面が大きいのは当然だろう。データによると、欧米では男性より女性のほうが睡眠時間は多いが、アジアではその逆で、中でも日本人女性の睡眠時間は世界一短い可能性がある。よって十分な睡眠が取れていないのだが、そのことで健康の面だけでなく美容の面でも影響が出てくるという。(全7話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:43
収録日:2021/06/23
追加日:2021/11/14
カテゴリー:
≪全文≫

●世界一睡眠時間が短いのは日本人女性なのか


―― 先生、今回は「睡眠における性差」ということで、男性と女性の差ということですが、とりわけ女性にとっての睡眠ということを考えた場合には、どういうところがポイントになりますでしょうか。

西野 私は動物実験などをするのですが、動物の場合に睡眠量の性差はほとんどありません。だから基本的に生物学的には、男性も女性も睡眠量は変わらないはずなのです。ただ、睡眠に影響を与えるホルモンとして性ホルモンが数えられますので、人間であれば女性のほうが第二次性徴が早いとか、そういったことには性差が出てきます。

 一つ興味深い統計があって、欧米では男性より女性が20~30分ぐらい長く寝る国が多いのですね。ところがアジアは、インドもそうだったと思いますが、男性より女性のほうが20~30分短いのです。特に女性で有職者(仕事のある人)が短いです。

 睡眠時間にはいろいろな調査がありますが、日本人は男女あわせて世界で一番短い。特に日本人の女性が男性よりも20~30分短いということは、日本人女性は世界で一番睡眠時間が短い可能性がある。

 それは生物学的なものではなくて、社会文化的な側面、特に仕事のある人はそうです。最近は「育メン」とかいうことで、認識も高まって分担されるようになってきたのですが、今でも家事や育児は女性に任せている場合も多い。そういう方たちが仕事を持つと、睡眠時間は確保できないということです。


●「眠らない女性は太る」生理学的な理由


西野 女性の場合、十分な睡眠が取れないと太るということも出てきています。なぜ太るかというと、最初にそれが話題になったのが2000年ぐらいでした。アメリカの疫学の比較で、睡眠時間の短い女性は、それが短ければ短いほど太るということが分かったのです。

 それで、これまで睡眠に興味のなかった内科の内分泌のお医者さんたちが興味を持ち出しました。私たちも動物実験をすることはあったのですが、「眠らないとよく食べる」ことが分かってきたのです。

 その機序に関しても、太っている人は脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌されて、あまり食べない(太らない)ようにネガティブ・フィードバックがかかっているのです。ところが、夜の睡眠を十分にとらないと、その機序が働かなくなって、非常に多く食べるようになるのです。

 一方で、胃からは食欲を増進させるグレリンというホルモンが分泌されます。こちらは(睡眠不足だと)逆に多く出るのです。それで、不適切な時間にたくさん食べるので、エネルギーとして燃焼されることなく太るということが分かってきました。太れば、高血圧になってくる。血糖の値にも影響し、インシュリンの分泌が悪くなったら糖尿病になる。いわゆる生活習慣病ですね。


●歪んで伝わっている「シンデレラタイム」と睡眠の関係


西野 女性の場合、(睡眠不足は)太るだけではなく美容などにも関連してきます。皮膚をできるだけ若々しく保つには保水機能が必要です。また、成長ホルモンなども、新陳代謝に関係します。皮膚などは絶えず置き換わっている細胞ですから、古い皮膚が表皮から脱落して、新しいものが真皮としてでき、2~3週間でそれが表皮でまた脱落します。そういった意味で、睡眠は美容にも大事だということです。

 そういったことで、逆に誤って対策されているようなことがあります。「シンデレラタイム」という言葉、私たちは何のことか分からなかったのですが、夜の10時から夜中の2時ぐらいに寝ると美容にいい、ということのようです。

 おそらく成長ホルモンのことを言っていると思うのですが、成長ホルモン(の分泌リズム)を発見されたのは日本人の高橋康郎先生で、いろいろな時間に寝かせて、成長ホルモンの分泌の状況を見るという研究をされました。これがなかなか大変な実験で、静脈に留置カテーテルを入れて、隣の部屋から定期的に血液を抜いて、その間の睡眠の状態を記録するというものです。

 そのようにして見つかった重要な発見なのに…。すなわち、「成長ホルモンは睡眠依存で、自己依存の要素はどちらかというと少ない」、つまり何時に寝てもいいけれど、最初の深い睡眠でないと成長ホルモンは分泌されないということで、そういった先達の重要な発見をゆがめて伝えるような形で間違った知識を流布されるのは、睡眠学者として困ることです。

 先ほど日本人女性の睡眠時間は短いというお話をしたのですが、女性というのは生理・妊娠・出産のように、性ホルモンの変化を伴う変化が生涯ついて回ります。性ホルモンと体温というのは睡眠に非常に影響を与えますので、女性の睡眠は非常に乱れやすく、また生涯のイベントによって左右されるということです。


●男性は40歳から出てくる睡眠負債の影響


西野 だ...
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