●睡眠不足の子どもは別の病気と間違われやすい
―― 続きまして「子どものための睡眠」ということでお話をお聴きしたいと思います。子どもの成長や学力、基本的な生活習慣など、いろいろな課題として感じられる方も多いかと思います。そのために睡眠というのは、どうあるべきでしょうか。
西野 大人の睡眠時間が世界でも一番短い。また、1960年頃からは1時間ぐらい短くなっている。その理由は夜寝る時間の変化です。夜10時前に寝る人が1960年代には65パーセントぐらいいましたが、最近では2割ぐらいでしょうか。
子どもも同じような傾向があります。やはり1時間ぐらい短くなっているし、夜寝る時間が子どもでも10時や11時になっている。朝起きる時間は遅くなっているのだけれども、夜寝る時間が遅くなるのに追いつかないのです。週末はさらにその傾向があって、土日に40分から1時間長く寝るのが普通で、それは睡眠負債の兆候なのでよくないということです。
子どももやはり睡眠負債がたまっている。大人の場合であると、「昨日の夜は寝られなかった」とか「眠たい」とか言うのですが、子どもの場合は割とそういうことを言わない傾向があります。どういうことになるかというと、イライラする、キレる、集中力がない、というようなことで、ADHD(注意欠陥多動性障害)のような症状が出てくるのです。
ところが、子どもでも睡眠不足が30~35パーセントぐらいいるし、ナルコレプシーという過眠症だったりもする。ナルコレプシーは最初は分からないのです。落ち着きがない、イライラするということでADHDの診断を受けたけれども、実は睡眠障害だったというようなことがあります。
子どもたちの生活習慣病として糖尿病もありますし、夜型になる影響として不登校が増えます。学校へ行っても、午前中はほとんど寝ている。家に帰ってくる頃になると元気になっているから、親もなかなか分からなかったりする。それが高じると、学校にも行けないようなことになる。こういったことが問題として認識されています。
子どもの睡眠負債が一番少ない3歳児の場合だったら、昼寝もするので、それを合わせても、長い子と比べると1時間ぐらい少ないということです。
●睡眠は子どもの脳の発達「可塑性」にも大きく影響する
西野 子どもの睡眠は大人以上に大切で、脳の発達に関わっている可能性が非常に高いのです。
人間もそうですが、例えば犬や猫も、マウスやラットも、生まれたときは脳が発達していません。そういった種は、生まれたときは寝てばかりなのです。人間だったら16時間ぐらい寝ています。新生児はもっと寝ていて、そのほとんどがレム睡眠です。夢を見る、脳が活発に動いている。それで12歳ぐらいになったら大人の脳になるけれども、そのときにはレム睡眠が減ってきて、大人と一緒のパターンになってきます。
(出生時に)脳が未熟な動物種ではこういったことが見られますが、実験に使うモルモットという動物の場合は、生まれたときに目が開いていて歯もあります。脳も、大人と同じ状態です。このモルモットは、生まれたときからほとんど大人と同じ睡眠パターンです。
そういった間接的なエビデンスで、多く眠る、特にレム睡眠が多いということが脳の発達に関係しているというようなことが言われているのですが、そういったことも最近は可視化できるようになってきました。
例えばレム睡眠が大事であるということで、脳の発達については「可塑性」という言葉をよく使います。いろいろな刺激を内部・外部から受けて、新しい神経回路が形成され、不必要なものが除去される。そういったものの繰り返しで、一番効率よく情報処理できるような回路が形成され、大人の脳になっていくということです。
やはりレム睡眠のときに、回路の形成、不必要な神経回路の除去──これは、植木屋さんの「剪定(せんてい)」という言葉がうまく言い表していると思うのですが──そういったことが実際に起こっていることが、今では画像で捉えることができるようになりました。それで、従来言われていることがやはり正しかったということが分かってきました。
だから、特に発達段階の子どもは、それも個人差があるのですが、その子に必要な睡眠時間を確保して、十分なよい睡眠を取らないと、脳の発育にも悪影響が出る可能性があるということです。
●地域ぐるみの「眠育」の必要性と可能性
西野 現代では、大人も子どもも夜型になって睡眠時間が短くなっている。だから、子どもだけに「早く寝なさい」と言ってもあまり説得力がないのです。親も同じように、例えば夕食の後はスマホを見ない、メールを見ない、コンピュータやタブレットをいじらないということにしないと、説得力がありません。
大阪府堺市では、木田(哲生)先生という教育...