●フロイトは睡眠の「生理・生化学的な分脈」に注目していた?
本日は睡眠について、特にからだや脳、こころの接点としての睡眠のお話をしたいと思います。名古屋大学の尾崎紀夫です。
内容としては、まず睡眠とは何か、睡眠の意味や調節機構、どれぐらいの時間が必要なのか、というお話から始めます(シリーズ第1話と第2話)。次に不十分な睡眠の場合、どのような病気のリスクがあるのか。糖尿病や心臓病、認知機能についてお話をいたします(シリーズ第3話)。続いて、睡眠を整えるための生活習慣。飲酒はどうなのだろうか。あるいは生活リズムとの関係はどうなのかについてです(シリーズ第4話)。その上で、認知症やうつ病と睡眠との問題についてお話しします(シリーズ第5話と第6話)。最後に少し話題が変わり、睡眠とともに私どもにとってとても大事な食についてお話しします(シリーズ第7話)。最近、日本の若い女性には過度に痩せ志向が進み、それが「神経性やせ症」といった生命の危険にも繋がり得る病気とも関係していることに触れます(シリーズ第7、8話)。以上の順番でお話をしたいと思っています。
本題に入る前に、若干、自己紹介をしておきます。私は現在、医学に携わっていますが、もともとは文系の人間で、フロイトに強い関心を持っていました。
フロイトは、「無意識がどのように働いているかを知る上で、夢は重要な手掛かりを与えてくれる。夢は無意識の活動を熟知する王道である」と言っています。私にとっては、小説など人文科学的な面からのフロイトへの関心が、夢や無意識に対する関心に繋がり、それがこころや精神疾患でした。またフロイトは当時、こんなことも言っています。
「精神現象に関して生理・生化学的な分脈で(すなわち脳科学によって)語ることが可能になれば、現時点では十分に記述し得ない事柄も、明確にすることが可能であろう」
彼がこのような発言をしていたことは、案外知られていないことです。こんなことを踏まえながら、今日のお話を進めたいと思っています。
●睡眠が進化してきたのには何らかの意味がある
まずは、睡眠がどのように進化してきたのかということからお話をします。
実は下等な動物には「活動と休...