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「理想の睡眠は8時間」に根拠はない

睡眠:体、脳、こころの接点(2)睡眠と覚醒のメカニズム

尾崎紀夫
名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野教授
情報・テキスト
睡眠薬の効果のメカニズムに関わる睡眠のメカニズムはどうなっているのだろう。そもそもわれわれはどのぐらい眠ればいいのか。シリーズ第2話では、睡眠と覚醒のメカニズムにフォーカスして、最新の研究成果を解説する。(全8話中第2話)
時間:05:53
収録日:2018/08/24
追加日:2019/01/18
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≪全文≫

●睡眠と覚醒のメカニズムと薬剤


 その後、さまざまな研究により、最近では睡眠系と覚醒系にリズム系というものを加えた三つが、われわれの脳にあることが分かってきました。

 「睡眠系」は、疲れたら休むというもので、「覚醒系」は、危険なときに目をさますというものです。さらにリズム系の「クロック(体内時計)」というものがあり、夜になるとからだが眠るというものです。現在では、睡眠と覚醒のメカニズムとしてこの三つの系が考えられています。

 これらに働く薬が、世の中にはたくさん出てきています。薬ではなくても、まずは、疲れたら休む「睡眠系」をブロックして、起こしてくれるのが、皆さんもお飲みになるだろうカフェインです。一方、「睡眠系」を促進するのは、以前から用いられている一部の睡眠薬や、お酒(後で詳しくお話をします)などです。「GABA」という脳内物質の働きを強めるタイプです。

 それから、「覚醒系」をブロックする薬剤として、花粉症などでは抗アレルギー剤である抗ヒスタミン薬を服用されることがあると思います。この薬を服用すると眠くなるのは、「覚醒系」に働くヒスタミンの働きを低下させるためです。さらに最近、「オレキシン」というものが筑波大学の柳沢正史教授によって発見されました。オレキシンの作用をブロックすれば覚醒がブロックされるため、眠ることになります。

 もう一つ、「リズム系(体内時計)」ですが、これは「メラトニン」という脳内物質が司っています。このリズム系を促進する形で、睡眠に持っていきます。

 このように、われわれの睡眠覚醒のシステムが分かってきたことから、それに対する薬剤も多様に開発されています。


●睡眠時間は年齢や季節とともに変化する


 これは、われわれがどのぐらいの時間眠るかを表したグラフです。小さい頃は長く眠り、10時間以上眠っていることもありますが、睡眠時間は年齢とともにどんどん減っていきます。特に「SWS:Slow Wave Sleep」と書いてある深い睡眠(記憶の整理・定着に非常に重要な睡眠)が減っていきます。これはわれわれとしてはとても残念ですが、致し方ないところでしょう。

 もう一つ。「リズム系」がだんだん悪くなってくるため、ちょっとしたことで夜と昼が逆転したり、夜眠らずに昼間にうとうとするようになります。このようなことが、介護の方にとってはとてもお困りの点です。これをどうするかが、今後の大きな課題であると考えられています。

 睡眠時間には、もちろん年齢だけではなく、いろいろな要素が関係します。かつて私が季節と睡眠の調査を日本で行ったときに、7~8月は最も睡眠時間が短い月であるという結果が出ました。だからといって、これは不眠症が夏に生じていると考える必要はなく、季節による変動と捉えてください。また、女性の場合、生理周期に関連して睡眠も変化します。こういった自然の変化に伴う睡眠の変動に対してお薬の力を借りるのは、いささか不自然だろうと思います。


●6~7時間が人間のもともとの睡眠時間


 何よりも睡眠と長命の関係については、いろいろ言われてきました。かつてはアメリカ、最近では日本でも、以下のように調査されています。

 このグラフは、北海道大学の玉腰暁子先生が2004年に発表している大規模な調査です。男性も女性も、6~7時間のところで最も死亡の危険率が低くなっています。つまり、睡眠時間の長短が問題ではなく、むしろ不眠をどのようにお感じになり、日中の活動に影響するかが重要であり、長さではないと思われます。

 とはいえ、人間の睡眠はもともとどれぐらいのものなのでしょうか。これは、なかなか分からないのですが、少し前に以下のような研究が報告されています。

 これは、電灯や電子機器もないような開発途上国で行われた調査です。彼らは、日没後も結構時間を経てから就寝して、起床は夜明け前だということが分かりました。

 この調査は、南アメリカとアフリカの二つの部族で行われました。合計三つの部族で、おのおの別個に調査していますが、どこにおいても6~7時間が彼らの睡眠時間でした。案外なことですが、それほど長く眠らないのが、われわれのもともとの睡眠ということです。8時間睡眠には、実は根拠はないようだということが分かってきたのです。
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