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睡眠障害がからだと脳に与える影響

睡眠:体、脳、こころの接点(3)睡眠不足と病気のリスク

尾崎紀夫
名古屋大学大学院医学系研究科特任教授/医学博士
情報・テキスト
睡眠不足が昼間のパフォーマンスに影響するのは、誰もが経験することだが、脳科学により、そのメカニズムが解明されつつある。シリーズ第3話では、睡眠の国際比較や長時間労働との関係を通じて、睡眠不足による病気のリスクを考える。(全8話中第3話)
時間:10:57
収録日:2018/08/24
追加日:2019/01/19
カテゴリー:
≪全文≫

●日本人は睡眠時間の短い国民なのか?


 今回は、不十分な睡眠が起こると、どのような病気のリスクがあるのかについて、お話をしたいと思います。

 前回、日本と世界の睡眠時間はどうなのかというお話をしましたが、日本と韓国は、OECD諸国の中で最も睡眠時間が短いという結果が出ていました。

 日本人の健康はこれで大丈夫なのでしょうか。フランスは9時間近く眠っているのに比して、日本や韓国は8時間を切っています。前回「睡眠は6~7時間」と伝えた話に当てはまるのは日本と韓国で、他の国は違うではないかということになりますが、実は調査方法に問題があるのではないか、とも考えられています。日本や韓国は「眠っている時間」を答えているが、欧米はどうも「寝床に就いていた時間」を調査していたのではないかということです。調査には、きちんとした一定の基準がないと意味をなしません。


●不眠の頻度を国際比較してみると?


 そこで、スライドの左表をご覧ください。同一基準による研究で出された「不眠の頻度」です。日本では、不眠を訴えている人が他の国よりも少ないことがお分かりいただけます。

 先ほどのお話とは食い違いがありますが、日本人は眠るためだけに寝床に入っていて、その方がかえっていいのではないかということです。寝床の中に長く入っていた方が、かえって睡眠の質の確保には悪いとの結果もあります。もともと生物は「活動と休止」のみですから、活動時間の長さがよく眠れることに関係してくるのかもしれません。

 この研究では、同時に「不眠があったときに、あなたはどういう問題を起こしますか」という質問もしています。

 日本(スライドの右グラフ内の薄い灰色部分)の数字をご覧ください。「職業上の問題が起こる」(Professional activities)と答えた人が6割となり、世界の中で日本は不眠による職業上の問題が一番起こりやすい国だといえます。また一方、最も少ないのは「個人生活における問題」(Personal activities)です。それに比して、アメリカ(同グラフ内の黒色部分)では「個人生活」に問題が起きるという人の割合が多くなっています。日本がアメリカと比べて、個人生活より職業上の事柄を重視しているとも思えますが、不眠の影響は地域によって違うところに出てくることになります。


●眠れない中高年、眠くて仕方がない若年者


 日本における不眠の方がどれぐらいいて、どんな方なのかという調査は何度か行われています。以下の資料を紹介します。

 これは、年齢による違いに着目したグラフです。ご覧のように濃い青で示した、お年を召した方(60歳以上)は中途覚醒(睡眠途中で目が覚める)や早朝覚醒(朝早く目が覚める)が多い。一方、薄緑色で示した若い方(20~30歳代)は、日中眠くて仕方がないと訴える層が多い。ここから明らかになるのは、「眠れない中高年、眠くて仕方がない若年者」ということでしょう。

 こういった不眠や過眠によって先ほどのような職業上の問題、はたまたその人の個人生活に影響を及ぼすかどうかというところがポイントになります。悪い影響がなければ、睡眠時間がどうあろうと、大きな問題はないともいえます。


●長時間労働は、睡眠時間減少に直結していた


 ここのところ「働き方改革」が叫ばれており、できるだけ労働時間を短くする提案がされています。長い時間働くことによって、どういう問題が起きると懸念されているのでしょうか。

 このグラフは、厚労省関係の研究所である労働安全衛生総合研究所が発表したものです(2007年)。週労働35~40時間(月時間外労働ゼロ時間)をベースとして、労働時間が延び、週66時間以上もの長時間労働をすると、緑で示した短時間睡眠が圧倒的に増え、その結果とも思えますが疲労の回復がうまくいかず、昼間に過度の眠気が起きています。

 長時間労働の問題は、睡眠時間が短くなるから問題であろうということになります。つまり、長時間労働で睡眠時間が短くなることを防ぐのが極めて重要だろうと示唆する結果です。


●睡眠障害がからだと脳に与える影響


 では、もしも睡眠障害が起こると、どういうことになるのでしょうか。

 体にとっては、例えば糖の代謝がうまくいかなくなります。その結果ともいえるのが心循環器系の問題、免疫機能の低下で、時にはがんになったり、痛みに対する感度が上がってしまったりします。「痛い」と感じる機能が亢進するため、痛いから眠れないし、眠れないためによけい痛みを強く感じるといった悪循環が起きてきます。

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