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低体重なのにやせ志向に陥る若年女性の「神経性やせ症」

睡眠:体、脳、こころの接点(7)若年女性のやせ志向

尾崎紀夫
名古屋大学大学院医学系研究科特任教授/医学博士
情報・テキスト
睡眠と同様に人間に欠かせないのが「食」。食に関連して、若年女性の間に過度のやせ志向が進み、生死に関わる「神経性やせ症」が増加しているという。シリーズ第7話では、その状況と問題点について解説する。(全8話中第7話)
時間:06:16
収録日:2018/08/24
追加日:2019/01/24
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キーワード:
≪全文≫

●20代の女性の平均BMIはなぜ下がっていくのか


 ここからは、食についてお話をしたいと思います。特に若年女性の過度のやせ志向、また、それを背景にした「神経性やせ症」は生き死にに関わりますので、これらについてお話しします。

 BMIという言葉は何度かお聞きになっていると思いますが、体重と身長のある種の比を取って計算をします。左が日本人男性のBMIで、時を経るにつれてどの年代でも上がっています。25以上の方が「肥満」と呼ばれますが、極めて多くなっていて、肥満者は男女とも1,000万人以上といわれています。

 一方、右側の女性のグラフで、一番下の赤い線をご覧ください。ここだけが特異的で、年を経るにつれてどんどん下がっています。若い女性だけは、われわれ男性と違って年を経るにつれてBMIがどんどん下がっています。その事態が果たしていいのかというのが、今回のお話です。


●やせているのにやせていないと思っている若い女性が増えた


 上は、2004年に厚生労働省が調査した「国民健康・栄養調査」の結果です。左側が肥満に関するグラフ、右側が低体重(やせ)に関するグラフです。

 青いラインは、左側では実際に肥満している人(BMI25以上)、右側では低体重の人(BMI18.5以下)を示しています。BMI18.5は、身長160センチで47キロぐらいです。赤いラインは自己認識、左では自分が「太っていると思っている」、右では「やせていると思っている」人の割合を示しています。

 先ほど、若い女性のBMIがどんどん下がっているといいましたが、10-20歳台の女性の低体重比率のグラフをご覧ください。実際の体重は約2割が青いラインで、18.5未満になっています。一方、赤いラインが彼女たちの特徴であり、「やせている」と認識している人は10パーセント程度しかいません。この差分、即ち全体の10パーセント弱が、「やせているのにやせていないと思っている若い女性」たちです。

 一方、肥満率のグラフを見ると、BMI25を超えている若い女性は5~6パーセントしかいません。ところが4割以上の若い女性が「自分は太っている」と思っています。

 総じていうと、日本人の若い女性はBMIがどんどん下がり、太っていると思いすぎ、やせているとは思っていないのにやせているという事態が起こっているのです。


●やせたお母さんからは低体重児が生まれてくる?


 日本人の若い女性のやせ志向がどういう問題を起こしているか。OECD加盟国の低出生体重児の割合をグラフで見ましょう。先ほどは睡眠時間の比較を見ましたが、低出生体重児(2500グラム未満)に関しては、日本は10パーセントに近づき、世界トップになっています。とんでもないことです。

 国としても、これは大きな問題と捉えています。どういう問題を起こすかは、出生時に低体重だった人のその後を調査した研究を見ると分かります。多くの研究がありますが、いろいろなライフステージで、さまざまな疾患(脳の疾患や体の疾患、例えば腎臓病など)の発症リスクにつながるといわれています。

 このような低出生体重児を減らすことは、健康上極めて重要だと国も考え始めています。新生児が低体重出生するのは、母親がやせ過ぎていると栄養が不足するためだといわれています。そうしたことを背景にしながら、「神経性やせ症」の問題を見る必要があります。


●低体重なのに体重が増えることを恐れる「神経性やせ症」


 かつてカレン・カーペンターという若い女性歌手(カーペンターズ)がいましたが、彼女はこの病気で死んでいます。自分の必要なエネルギーを十分取らず、その結果、体重が非常に下がってしまうのです。

 アメリカの診断基準では、BMI15を切ると「極度」(のやせ)だとしています。身長160センチで40キロ未満ですから、だいぶやせている人たちです。しかも、低体重なのに体重が増えて太ることを恐れます。ということは、低体重であることを十分認識していない、あるいは自分のやせを認識していないともいえます。

 一方、「自分の体重や体形をどう感じるか」というところで障害があると同時に、そうした「体重や体形がどうか」ということが自分を評価するときの全てになっているのです。つまり、「太っている自分は駄目だ。やせている自分こそ素晴らしい」ということになってしまっているので、低体重の現実を認めないのです。
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