●認知症に対する偏見をなくし、知識を得るのがスタートだ
国立長寿医療研究センターの遠藤英俊です。今回のテーマは認知症です。最初のセッションは概論です。
認知症は高齢化に伴って非常に増えており、現在、高齢者人口の15パーセントを占めています。2025年には推計値が700万人を超え、さらに右肩上がりで増えていくといわれています。
ところが海外では、認知症はこの10年間で約20パーセント減っているというデータがあります。その一番の理由は、学歴の上昇です。学齢が1.5年高くなると、認知症が年間2パーセント減るというデータもあります。学歴はなかなか変わらないものですが、今後は薬への期待もしつつ、まずは生活習慣や運動を通じて、認知症を減らしていくことが重要です。
認知症は、昔は「ボケ」や「痴呆症」と呼ばれていました。そのため今でも、「ボケたら何も分からない」「ボケたらおしまいだ」というような、病気に対する偏見があります。「人生100年時代」と安倍晋三総理もおっしゃっているように、現在、人間は60歳を超えて100歳まで生きる時代が来たといわれています。その中では、おそらく2人に1人が認知症になるのではないかと思います。実際には高齢者人口の15パーセントですが、個人にとっては2分の1の確率で認知症になるかもしれないという状況です。つまり、認知症は「当たり前の病気(コモンディジーズ)」なのです。その中で、認知症に対する偏見をなくし、認知症の知識を得るということは、スタート時点として重要だと考えています。
概論として今回は、認知症の原因となる病気の種類についての説明と、その6割を占めるアルツハイマー病の説明をしたいと思います。
ちなみに最近では、地域包括支援センターや認知症の初期集中支援チームが全国の市町村にあります。親や自分が「ちょっとおかしいな」と思ったときには、そちらが相談窓口となります。
●あと数年で、認知症の予防薬ができる
それでは本論に入ります。認知症には認知機能や記憶が低下したり、計画が立てられない、料理が作れないといった、実行機能が低下していくイメージがあります。しかし、全く何も分からなくなるというのは(認知症が進行して)最後の方の2~3年です。最初の10年ほどは感情や好き嫌いもあり、やれることも多いのです。
また、一般的に「認知症にだけはなりたくない」「家族の世話になりたくない」と思われています。現在、要介護認定の一番の原因が認知症なので誰しもこのように思うのでしょうが、日々の生活によって認知症のリスクを減らすことができると考えて頂いた方がいいと思います。
認知症は治らないといわれています。一方、実はあと数年すると、認知症の予防薬ができると思います。ただ、薬ができたときに認知症になってしまっていては間に合わないので、それまでは認知症にならない、という気持ちが大事です。
先ほどお伝えしたように、認知症は右肩上がりで増えており、将来的には700万人を超え、1000万人も突破するのではないかといわれています。われわれはこれを減らし、予防し、治療したいという思いで活動をしています。
そこでもう1つ問題なのは、認知症の一歩手前にある認知症予備軍にどう対応するかということです。医学的には「軽度認知障害」と呼ばれているのですが、これが実は、高齢者人口の13パーセントに上り、そのうちの年間10パーセントが認知症に発病するのではないかという報告もあります。そのため、予備軍のときにどう生活するかを考えることも、とても重要です。
●認知症の原因疾患は4つの病気からなる
認知症の原因疾患について説明したいと思います。
認知症は症候群であるため、総称です。グラフが示すように、病気としてはアルツハイマー病が67パーセントを占めています。次に血管性のものが18パーセント、レビー小体型が約5パーセントと続きます。これに前頭側頭葉変性症を加えた4つの病気が、認知症を考える上では重要だと考えられています。
●認知症と加齢の違いに気づくセンサーを身に付けよ
アルツハイマー病に典型的な症状ですが、認知症は5分前のことを忘れてしまう、置き忘れが多い、人の名前が出てこないといったことから発見されます。しかし、一番顕著なのは、請求書の支払いなど、お金の取り扱いができなくなるということです。また、薬が適切に飲めなくなるということもポイントです。
こういった日常生活上の失敗が出てきたときに、認知症ではないかと思えるようなセンサーが必要なのです。早めに見つけると、対応が優しくなり、薬も効きやすいためです。今アルツハイマー病には4...