●シェアード・ディシジョン・メイキングの方向性
患者の意向や希望、あるいは状況を鑑みて、かつ患者あるいはその家族が意思決定に参加できること、これが最近話題になっている「シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared decision making:SDM)」です。
今の世の中では、不思議なことに「シェア」という言葉が極めて一般的になってきています。家の中の一室を「民泊」という形でシェアすることもあれば、タクシーの代わりに車をシェアするサービスもあります。いろいろな高価な道具をシェアするなど、「シェアする」ことが世の中で大変多くなってきました。
ある種の専門職が提供するものだけを、そのまま一方的に受け取るのではなく、その中でインタラクションが生じてくることを楽しむというものもありますが、医療においても、医療者と患者・家族が医師判断をシェアしていくということが、最近いわれています。
シェアする必要のないものもあります。先ほどお話ししたように心臓が止まった場合、交通事故で足の骨が折れてしまって血が噴き出している場合などは、シェアする暇はありません。その場で最も適切な治療を行うことが大事です。あるいは、血圧の薬を飲んでいたところ、少し塩分が減ってしまったため、どうも薬の量が多かったかもしれないということで、これに関しては、医師からそういった情報を患者に伝えますが、シェアしてディシジョンする必要はなく、薬の量を少し減らせばいいわけです。
●不確実性があるときに必要な「共有意思決定」の方法
シンプルな症例では必要ありませんが、前半でお話しした「治療の中に不確実性がある」「ABC何らかのチョイスがある」ような場合には、シェアード・ディシジョン・メイキング、日本語でいうと「協働する」あるいは「共有して意思決定を行う」方法が必要ではないかといわれています。
私自身、このシェアード・ディシジョン・メイキングを大変重視しているのは、二つの疾患の場合です。
一つは難病といわれる病気で、「多発性嚢胞腎」という、皆さんにはあまり聞き慣れないものです。あまり知られていませんが、実は遺伝する病気の中では最も多い病気で、だいたい3千人に1人の方が、この病気ないし体質を遺伝子として受け継いでいます。「常染色体優性遺伝」といって、父母のどちらかが患者だと、5...