●乾燥、虫さされ・・・。一つではないかゆみの原因
順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科の髙森と申します。
この季節になりますと、空気が乾燥して体にかゆみを覚える人が、特に高齢者に多くなります。空気が乾燥していますので、皮膚も乾燥してくるのですが、かゆみの原因は、この皮膚の乾燥ということになります。秋から冬にかけて多く、梅雨の時期になると自然に止まるかゆみを「乾皮症(かんぴしょう)」という名前で呼びます。高齢者に多いことから、「老人性皮膚掻痒症(ろうじんせいひふそうようしょう)」という名前でも呼ばれます。
これは皮膚の乾燥に由来するかゆみですが、この他にもかゆみを起こす原因はいろいろあります。皆さんも経験していてご存じだと思いますが、虫刺されでもかゆみは生じますし、じんましんによっても非常に強いかゆみが生じます。
中でも現在、最も話題になっているのが、アトピー性皮膚炎によるかゆみです。一般にかゆみ止めには「抗ヒスタミン薬」を使いますが、アトピー性皮膚炎のかゆみには抗ヒスタミン薬が全く効果を表しません。このように従来の治療法では制御できないかゆみを、私たちは「難治性のかゆみ」と呼んでいます。現在、かゆみの研究では一番問題になっているところです。
●かゆみは私たちに何を訴えているのか?
かゆみには定義があり、「かきたくなる感覚を引き起こす不快な感覚」と言われています。また、痛みとかゆみはよく比較されますが、痛みは、体のどこかに炎症があり、それが拡大しないように体の方からわれわれに早く治療するよう警告するために存在すると考えられています。痛みの刺激があると、私たちはそれから逃れようと、逃避反応を引き起こします。
これに対して、かゆみがなぜ存在するのかということは、まだ分かっていません。しかし、私はかゆみもやはり痛みと同じように、体の異常を知らせるマーカー(警告反応)であると考えています。
例えば、皮膚が乾燥するとバリアが壊れてきます。そうすると、かゆみを伝える神経線維が皮膚の中から表面近くまで上がってくるために、外からのわずかな刺激でかゆみを生じます。すなわち、かゆみというのは、バリアが壊れていることを私たちに知らせる反応であろうと考えられるのです。
こういう場合には、早く保湿剤を塗って皮膚のバリアを修復することが大切です。かゆみというのは、やはりわれわれに体の異常を知らせる重要な反応であると私は思っています。
●かくと気持ちいいが、夜も眠れぬかゆみもある
かゆみがある場合には、痛みと違って、ひっかきます。かくと、気持ちがいい。それはどういうことかというと、皮膚に異物がついた場合に、それを払いのけようとする反応、それがすなわち「ひっかき反応」です。そして、かゆみをひっかくことは、非常に原始的な反応であると考えられています。
最初に触れましたが、乾燥肌ではかゆみが出てきます。湿疹などはなく、ただ皮膚が乾燥しているだけなのに、かゆい。この場合のかゆみを「皮膚掻痒症」といいます。通常のじんましんや虫刺されの場合は、症状があってかゆみが出てくる。しかし、皮膚掻痒症では、何も見当たらないのにかゆみが出てくるのです。この原因として、最も多いのが皮膚の乾燥ですが、皮膚の乾燥は空気が乾燥するからだけではなく、内臓の異常によっても起こります。
例えば、腎臓が悪い人では、腎不全の末期になると皮膚がカサカサになってきて、かゆみが出てきます。このかゆみに抗ヒスタミン薬は全く効きません。現在、かゆみがある場合に誰もが飲むのが抗ヒスタミン薬で、大部分のかゆみを抑えてくれるものですが、腎疾患に伴うかゆみには全く効果がありません。
腎疾患が進むと、最終的には腎不全を引き起こすため、透析を行います。これにより、さらにかゆみが強まって、透析患者の約8割から9割が、かゆみを伴っていると言われています。その中でも10~20パーセントの患者さんは、夜も眠れないような「激痒」といわれるほどのかゆみを経験しているのです。
●抗ヒスタミン薬の効かないかゆみを抑制する薬
同じようなかゆみが、肝疾患でも出てきます。特に、胆汁うっ滞性の肝硬変は、いろいろな病気の中で一番強いかゆみを出すと言われています。これにもやはり抗ヒスタミン薬は効きません。患者さんは、皮膚科や内科など、どこに行っても治してもらえないため、体を冷やすなど、自分でいろいろな対処法を考えていました。
ところが、数年前にこのかゆみの原因が明らかになってきました。通常のかゆみはヒスタミンによって起きるため、抗ヒスタミン薬を飲めば、かゆみが止まります。しかし、肝疾患や腎疾患、透析によるかゆみには、ヒスタミンは一切関与していません。
そのため、通常の治療...