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アトピー性皮膚炎はなぜ「かゆい」?…症状の原因と対策

かゆみのメカニズム(3)アトピー性皮膚炎に迫る

髙森建二
順天堂大学 名誉教授/順天堂大学大学院医学研究科皮膚科学 特任教授
情報・テキスト
社会人になってから発症することも多い、アトピー性皮膚炎。その特徴とメカニズム、かゆみを抑える方法は、誰もが知りたいことの一つだ。アトピー性皮膚炎に代表される難治性のかゆみの研究で日本の最先端を走る順天堂大学の名誉教授で同大学院皮膚科学特任教授・髙森健二氏にお話をうかがう(全4話中第3話)。
時間:15:00
収録日:2015/12/22
追加日:2016/02/18
≪全文≫

●アトピー性皮膚炎の夜も眠れないかゆみの特徴


 本日は、アトピー性皮膚炎のかゆみの特徴と治療法についてお話をさせていただきます。

 かゆみは、アトピー性皮膚炎の主たる症状で、患者さんは夜も眠れない強いかゆみに悩まされています。

 かゆみがあると、皮膚を引っかきます。皮膚を引っかくと、細胞からはかゆみや炎症を起こす物質であるサイトカインが出てきます。これによってさらにかゆみが起きるので、引っかきます。引っかくと、また同様にかゆみを起こすサイトカインが皮膚の細胞から出てきます。これが、かゆみと掻破(引っかくこと)の悪循環になっていきます。その結果として、アトピー性皮膚炎では、かゆみと掻破の悪循環を止めることができず、ひたすらかき続けることになります。こうして、夜も眠れないような強いかゆみが続いていくわけです。

 アトピー性皮膚炎の人は、そうでない人と比較すると、わずかな弱い刺激を受けただけでも、過剰に強いかゆみが出てくることが知られています。

 また、私たちは誰でもかゆみがあると引っかきますが、かいているうちに非常に強い痛みが出てくるため、アトピー性皮膚炎でない人はかくのをやめます。ところが、アトピー性皮膚炎の場合、痛みが出るとさらにかゆみが強くなることが分かっています。いつまでもかくのをやめられないのは、痛み刺激がかゆみを誘発するためでもあります。

 さらにもう一つ、大切なことがあります。私たちがかゆみを訴えて病院へ行くと、どこでも抗ヒスタミン薬が投与されます。じんましんなどの場合は、この薬の内服によって、かゆみがぴたりと収まります。しかし、アトピー性皮膚炎のかゆみは、この抗ヒスタミン薬を飲んでも全くと言っていいほど止まりません。

 そこで、なぜ抗ヒスタミン薬がアトピー性皮膚炎には効かないのかということが、大きな問題として浮上しました。従来のかゆみ止めの薬が効かないかゆみを、専門家は「難治性のかゆみ」と呼んでいます。世界中の研究者がこの原因を追究しているところで、私もその一人です。


●なぜ乾燥すると、皮膚はかゆくなるのだろうか


 症状について申し上げると、アトピー性皮膚炎の原形は皮膚の乾燥です。それが、引っかいているうちに湿疹化してしまい、いわゆるアトピー性皮膚炎の症状になるわけです。

 そこで、なぜ皮膚は乾燥すると、かゆくなるのか、ということが問題になります。乾燥肌を引っかくことによって悪化した結果がアトピー性皮膚炎であると考えられるぐらいなのですから、引っかくことは本当に重要です。ほとんどの皮膚病は、引っかくことによって悪化します。かきさえしなければ自然によくなっていくのが、ほとんどの皮膚病の実態です。

 アトピー性皮膚炎の本体は、「乾燥すると、なぜかゆくなるのか」を考えることだと私は思います。そこで、乾燥肌がかゆみを起こす原因をいろいろと調べ、おそらくこれには神経線維が関係しているだろうと当たりをつけて調べてゆきました。

 乾燥した皮膚は、敏感肌になります。それを電子顕微鏡で見ると、皮膚のバリアが壊れた状態であることが分かりました。バリアというのは、外から異物が入ってこないような皮膚の構造を言います。また、これにより水分が体の中から外に出ていかないという作用も持っています。

 すなわち、われわれの体はバリアによって守られています。バリアのしっかりしている正常な人は、水分が外に出ていかないため、肌はしっとりした状態を保ちます。しかし、アトピー性皮膚炎の人はバリアが壊れているために、水分が皮膚の外に出ていってしまう。そのために皮膚が乾燥してしまい、非常にかゆくなるのです。

 この原因は、神経線維にあります。かゆみを感じる神経線維は、正常な場合には皮膚の中の方、すなわち表皮と真皮の境界部で終わっています。しかし、乾燥肌になると、神経が皮膚の表面近くまでずっと伸びてくるのです。このような状況になると、外部からのわずかな刺激で神経は興奮して、かゆみが起きるということになります。

 これが、いわゆる乾燥肌によるかゆみの原因であると言っても過言ではありません。


●かゆみの原因、バリア機構と神経線維を探る


 バリアについて明確にイメージしていただくためには、皮膚に小さな穴がたくさん空いていると考えれば、分かりやすいかもしれません。

 皮膚にたくさんの穴が空いていると、外から異物が入ってきます。それによって神経は刺激されます。また、この穴を通して水分はどんどん外に蒸発していきます。これがすなわちバリア機構です。アトピー性皮膚炎では、バリアが破壊されていることが大きな原因の一つになっています。

 また、アトピー性皮膚炎になると、神経線維が表皮内に侵入して、皮膚の表面近くにまで伸びてくるという話...
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