●末梢性と中枢性、二つのタイプのかゆみがある
前回は、かゆみについての総論をお話ししましたので、本日はかゆみがどのようにして起きるのかについてお話しします。
分類すると、かゆみは末梢性のかゆみと、中枢性のかゆみに分けられます。
皮膚の構造をご覧ください。末梢性のかゆみでは、かゆみの刺激が表皮と真皮の境界部にあるC神経終末に作用することによって神経の興奮が起こり、それが脊髄から視床、大脳皮質へと達してかゆみが認識されていきます。この場合、かゆみを起こす物質は主としてヒスタミンですので、抗ヒスタミン薬がかゆみを止めることができます。
また一方、抗ヒスタミン薬の効かないかゆみがあります。それを中枢性のかゆみといいます。中枢性のかゆみ発現には、オピオイドという物質が関与しています。
オピオイドというのはモルヒネに似た物質のことで、中でも一番代表的なのがβエンドルフィンです。これがオピオイドのレセプター(受容体)に結合することによってかゆみが起きます。この場合、かゆみの発現にヒスタミンは一切関与していませんので、抗ヒスタミン薬を飲んでも、かゆみを止めることは全くできません。
●熱帯植物から始まった“かゆみ”の研究
この二つについて、もう少し詳しくお話しします。
カウイジという熱帯植物がありまして、皮膚に刺さるとものすごく強いかゆみを現すことが、原住民の間では知られていました。アメリカ人の皮膚科医でシェリーという人が熱帯地方を旅行していた時にこれを聞いて面白がり、かゆみの研究に使えるのではないかと思って持ち帰り、実験を行うことにしました。1957年のことです。
この植物には小さなとげがあり、それを皮膚に刺すと「激痒」といわれるものすごく強いかゆみを生じます。シェリーは、それがどのくらいの深さに刺さったときにかゆみを感じるかを調べていきました。
その結果、表皮と真皮の境界部にこのトゲが刺さったときに、最も強いかゆみが出ることが分かりました。そこで彼は、かゆみを感じる部位は、皮膚の中でも表皮と真皮の境界部にあるのではないかと考えたわけです。
●皮膚には、かゆみを感じる点と感じない点がある
また、皮膚にとげを刺すとかゆみが起きるといっても、皮膚表面の全てがかゆみを感じるわけではなく、感じる点と感じない点があることも分かりました。
そこで、一体かゆみを感じる点と感じない点の違いは何だろうということで、皮膚を取り、神経の染色がなされました。
そうすると、かゆみを感じる点(痒点)の直下には細い神経線維がたくさん集まっていることが分かりました。一方、かゆみを感じない点では、そのような神経はほとんど集まっていません。そのことから、皮膚科医シェリーは、かゆみの通り道になっていそうな細い神経線維を見つけました。
神経線維は、A線維、B線維、C線維と分かれています。A線維は最も大きく、C線維が最も細い。彼が報告したのは、C線維がかゆみを伝えているだろうということです。
しかし、「かゆみは痛みの弱い感覚である」という説がずっとありました。痛みもかゆみも同じ一つの神経を通るのだということで議論があったわけです。
●明らかになりつつつある「かゆみ」のメカニズム
1997年というごく最近になり、ドイツのマーチン・シュメルツという麻酔科の医師が、かゆみだけを伝える神経線維(C線維)を見つけました。このことによって、かゆみと痛みは全く違う経路を通るということが明らかになったわけであります。
その結果、かゆみというのは、表皮と真皮の境界部にある“かゆみ”だけを伝えるC線維が、ヒスタミンをはじめとするいろいろな刺激を受けて神経が興奮し、それが最終的には大脳皮質に伝達されて起きるということが明らかになってきました。
では、その神経終末を刺激して、かゆみを起こす物質にはどんなものがあるかということですが、先ほどから話しているヒスタミンが代表的です。その他、セロトニンとか、細胞から出るサイトカインという物質など、あるいはタンパク分解酵素でトリプターゼに代表されるようなもの、さらにプロスタグランジンなど、いろいろなものがかゆみを起こすことが分かってきました。
これらの中で最も重要なのはヒスタミンです。そこで開発されたのがヒスタミンを対象とする抗ヒスタミン薬です。これはヒスタミンがかゆみを起こしている場合には非常によく効きますが、ヒスタミンの関係しないかゆみには、ほとんど効果を発揮することができません。ですから、タンパク分解酵素やサイトカインなどが直接かゆみを起こしている場合には、抗ヒスタミン薬は効かないことになります。
●ヒスタミンの効くかゆみの特徴
ヒスタミンの効くかゆみには、実は特徴があ...