医療から考える国家安全保障上の脅威
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
医療者から見た「NBC兵器」三つの特徴と救命活動のポイント
第2話へ進む
フェンタニルの麻薬中毒も意図的な戦略?非対称兵器の脅威
医療から考える国家安全保障上の脅威(1)「非対称兵器」という新たな脅威
山口芳裕(杏林大学医学部教授/高度救命救急センター長)
国家安全保障上の脅威といえばミサイルや爆弾投下などの「武力攻撃」を想定しがちだが、現在、特に先進諸国では異なる見方をしているという。2024年米国下院の特別委員会で、国内に大量の中毒者・死亡者を出して社会問題視されているフェンタニルが、中国の国家的戦略によって持ち込まれたものと報告されたのだ。これは「非対称兵器」と呼ばれるものの事例だが、いったいどのようなものなのか。その脅威について解説する。(全5話中第1話)
時間:6分39秒
収録日:2024年9月20日
追加日:2025年5月1日
≪全文≫

●武力攻撃から非対称兵器へ――国家安全保障上の脅威に対する違う見方


 山口芳裕と申します。今日は医療、あるいは健康被害という観点から国家の安全保障についてお話をさせていただきます。その第1回として、まずは「非対称兵器」についてお話をさせていただきます。

 わが国が安全保障上の脅威をどう捉えているか。これは、内閣府が毎年編纂している『国家安全保障戦略』を見ると、その概要がうかがえます。実際にこれを見ると、日本という国家は安全保障上の脅威を明確に「武力攻撃」と捉えていることが分かります。

 武力攻撃といえば、ミサイルが飛んでくるとか爆撃機が爆弾を投下するなど、目に見える形の脅威です。こういう兵器のことを「オバート(overt:明白な、公然の)な兵器」と申します。ですから、わが国はこれに対抗する最終的な安全保障上の担保を、防衛力の強化と位置づけているわけです。

 しかしながら諸外国、特に先進諸国は国家安全保障上の脅威に少し違ったものの見方をしています。例えば、2024年4月の米国下院の特別委員会では、アメリカで大変問題になっている麻薬中毒の原因であるフェンタニルという麻薬が、中国の国家的な戦略によって持ち込まれているということが報告されています。

 このフェンタニル中毒なるものは非常に大きな問題になっていて、米国内の中毒患者は数百万人に上り、年間8万人以上が死んでいます。下院の特別委員会の表現を用いると、「毎日、大型旅客機が落ちているぐらい」の死者、すなわち200人以上が死んでいるほどの大きな問題になっています。実際、10代から40代の死因の第1位がこの中毒になっていますし、このことが米国国民の平均年齢を大きく押し下げてもいるわけです。

 先日、ロサンゼルスへ行ってみますと、大きな繁華街の至るところで、足元も覚束なく、這い回るような──現地の人は「ゾンビ」と呼んでいます──中毒者がいたるところに見られます。現地の人に、「どうしてこんなに多いのか」と訊いてみると、「とにかく入手しやすい。そして安価である」ということを言っています。

 実際、1アンプル(で済み、)1日1本注射をすると気持ちいい状態になってしまうわけですが、この1アンプルの値段はタバコ1箱よりも安いのです。こうしたことが中国の国家的な戦略によって意図的にもたらされているとすれば、これを脅威といわずになんというでしょう...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
逆境に対峙する哲学(3)修行・物語・語りの転換
武士道に学ぶ自己訓育――幻想としての順境に抗するために
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
本当によくわかる「量子コンピュータ入門」(2)コンピュータの歴史
量子コンピュータの転機となった1990年代の発見とは何か
武田俊太郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫