●テロリストがNBC兵器に注目する理由
では健康医療安全保障の2回目。今日は「CBRN(シーバーン)」、NBC兵器について、お話をさせていただきます。
前回の話では非対称兵器──誰が何の目的でこれをしでかしたのかが分からないような兵器──が、先進諸国の最も注目している脅威であるというお話をしました。その具体的な、最も蓋然性の高い兵器の一つが、このNBC兵器ということになります。
ご承知の通りNはnuclear(weapon)、核兵器のこと。Bはbiological(weapon)、生物兵器。そして"C"はchemical(weapon)、化学兵器のことです。こうしたNBC兵器は、なぜ非対称兵器として注目を浴びるのでしょうか。
テロを企てようとする組織や国家が(NBC兵器に)なぜ注目するのかという最大の理由は、コストパフォーマンスにあるといわれています。実際、米国の安全保障の教科書には1キロ四方の住民を殺傷するのに必要なコストが明記されています。一般兵器、つまり爆薬でこれを行おうとすると約2,000ドル。核兵器で行おうとすると約800ドル。化学兵器では約600ドル。そして生物兵器はわずか1ドルでできると記載されているわけです。
こうしたことから、生物兵器はNBCの中でもとりわけ資金力の乏しいテロ組織が使う「貧者の核兵器」などという言い方もされるわけです。
●NBC兵器の具体例
実際にNBC(兵器)のそれぞれでは、もう少し具体的にどういうことが想定されるのかを話させていただきます。
まず、N(核兵器、放射線兵器)については、わが国では東日本大震災から福島第一原発の事故を経験しているため、どうしても原発関係の事故が頭をよぎります。しかし、外国でN災害というと、圧倒的にテロあるいは第三世界からの攻撃を想定しています。
次のB(生物兵器)ですが、現在最も危惧される生物兵器として、新型コロナ感染症のときに非常に有名になった米国のCDC(疾病予防管理センター)という施設は、最も危険なグループを「カテゴリーA」としてホームページ上で公開しています。中でも一番危険と位置付けられているのが天然痘です。2番目が炭疽菌、そしてペスト、ボツリヌス、野兎(やと)、ウイルス性出血熱と続きます。
次のC(化学兵器)ですが、従来化学兵器は人を傷害することを主たる目的とする「有害化学兵器(有害化学剤)」と...