●監視の目をすり抜ける、非常に特殊な核種「ポロニウム210」
では、健康医療安全保障の第3回目です。今回は、これまでお話ししたNBCをめぐる最新の情勢についてお話をさせていただきます。
2回目にお話ししたように、非対称兵器の中でとりわけ重大な関心が持たれているNBC(兵器)ですが、こうした兵器は非常に進歩が速く、日進月歩です。そうした中で、最近特に注目しなければならない剤、あるいはその傾向について一つずつお話をさせていただきたいと思います。
まず最初は「ポロニウム210」、NBCでいえばNに当たる放射線核種の話です。このポロニウム210は、2006年にロシアのKGBの元職員であったリトビネンコという人がロンドン郊外で暗殺されるのに使用された剤です。
放射線で暗殺するのは、実はそう簡単なことではありません。放射線には、α線を出すもの、β線を出すもの、γ線を出すものがありますが、たとえα核種やβ核種であっても、放射性物質は必ずγ線を同時に出します。α線はわずかに1センチしか飛ばず、β線も10数センチしか飛びませんが、γ線は数キロ、あるいは宇宙からでも飛んでくるほど非常に長距離を飛ぶわけです。
ですから、要人が出入りするような施設では、多くの場合、その施設そのものを放射線の検知器が監視しています。この放射線の検知器は、γ線を検知することで放射性物質の持ち込みを監視しているわけです。α核種を持ち込もうとしても、β核種を持ち込もうとしても、必ず一緒に出ているγ線をもってそれを察知されてしまう。そういうことで、実際に暗殺に使おうとするのは非常に難しいというのが。これまでの常識でした。
ところが、このポロニウム210は非常に特殊な核種で、α核種ではありますが、実は99.999パーセントα線しか出さず、γ線をほとんど出さないわけです。ですので、いくらγ線の検知器が監視の目を光らせていても、容易にそこをすり抜けることができます。加えて致死量が極めて微量、ナノグラム単位であるということも、暗殺する側にとっては大きな魅力になるということがいえます。つまり、ほぼ完璧な暗殺兵器ともいわれているのです。
●VXとノビチョク使用時に使われた「バイナリー手法」
2つ目は「VX」。これはNBC(兵器)でいえばCの化学剤の中で、神経剤の部類に位置づけられるものです。これは、北朝...