●トランプ大統領が米朝首脳会談を決めた理由
日高 今の北朝鮮の問題がどこにあるのかはほとんど誰も理解していないでしょうし、理解しようとも思っていません。私が朝鮮の取材を始めたのはNHKにいた頃です。NHKに入ったのが1960年頃で、東京に戻ってきたのが1965年で、そこから、ベトナムもアメリカもあるけれども、北朝鮮のことはずっと取材していいます。
トランプ大統領が考えているのは「北朝鮮はやはり核保有国だ」ということです。したがって、アメリカと北朝鮮が平等の立場で核兵器を削減するという話を始めるということを言った。それで、金正恩が受けたと思うのです。
ところが、それは考え方としてはいいのですが、核兵器の内容として、北朝鮮は2017年に水爆実験を行い、核分裂の爆発をトリガーにして核融合の爆発にまで成功した。それから火星15号を打ち込んでいるでしょう。つまり、兵器の能力としてはアメリカ、ロシア、中国と同じような兵器を持ってしまったわけです。ということは、核保有国といってもいいと、何も知らない素人のトランプ大統領はそう思ったので、それを金正恩に伝えた。それで話が始まったと私は思うのです。
●核兵器を使う仕組み、体制が整っていないのが大問題
日高 ところが、マイク・ポンペオ(国務長官)にしても、ジョン・ボルトン(国家安全保障問題担当大統領補佐官)にしても、アメリカの核問題の専門家がいうには、北朝鮮が置かれている今の独裁状況、それから国の仕組みからすると、どういう状態で誰が核兵器を使うかという命令の仕組みもないということです。アメリカの場合だったら、国家安全保障会議、あるいは統合参謀本部というところがあって、核兵器を使うときにはそこで討議をするという仕組みがあるんです。ところが、北朝鮮の場合は金正恩が一人で判を押せば、核戦争が始まるわけです。
それに関してもう一ついうと、最前線の部隊が「核戦争だ」と動き出す場合、どうやってそれを味方の中で伝えて、どうやって動くのか、という体制が北朝鮮にはできていないんですよ。
基本は、北朝鮮の核の能力は核保有国と同じくらいで中国よりも進んだ兵器を持っているけれども、例えば中国の場合は共産党があったり、いろいろな会議があったりすると思うのです。ロシアだって、KGBなどいろいろあると思います。ところが、北朝鮮の場合は金正恩が自分一人で全部決めている。「こんなことでは話ができない」というのが専門家の話で、だから米朝会議はなかなか話が進んでいかないのです。
―― 今、国家体制の問題として北朝鮮がアメリカや中国と比べて、基本的に統治体制ができていない、チェック体制ができていない中で核を持ってしまった、と。それはボルトン氏はじめ今のアメリカの首脳が許さないということなのですが、そうすると金正恩からすれば、見通し違いで交渉を始めてしまったということになるのではないかと思うのです。アメリカは今後、北朝鮮に対してどのようなプレッシャーなり、対応をしていくと先生はお考えでしょうか。
日高 これまでの北朝鮮とアメリカの関係を見ていると、やはりビル・クリントン、ジョージ・ブッシュ、バラク・オバマ、この3人の大統領はほとんど北朝鮮を規制するというか、北朝鮮を何らかの形でアメリカの政策の中に取り込むという努力を、全くしていないといってもいいでしょう。野放しのようなものです。その野放しの中で、北朝鮮は経済的に崩壊するとこの3人の大統領は言っていたわけです。
ところが、北朝鮮は北朝鮮で努力しました。CIAなどの話だと、結局、国営企業はあるけれども、政府の目の届かないところでのプライベートな人たちが普通の国の企業と同じような形で仕事をしている。それが中国の企業とつながって世界中で商売をして、経済はアメリカが考えているよりも強くなっているのです。
●なぜハノイの米朝首脳会談で話がひっくり返ったか
日高 そういう中で、もともと北朝鮮というのは独立した時に、金日成がソビエトから送り込まれたけれども、核の技術をソビエトからもらっていたというのです。それは中国などよりも早い。そのままアメリカは規制をしなかったから、北朝鮮の核の技術は、アメリカが知らない間に非常に進んでしまっていたということなのです。それをアメリカの専門家は「トランプ大統領が何も知らないから、こんなことを言い出した」と言っていますが、専門家の話を全然聞いていないということは、逆に「それなら、中国よりも北朝鮮の方が進んでいるんじゃないか。水爆までつくるのだから、アメリカと対等で話をしてもいいんじゃないか」ということで、初めてシンガポールで会ったということです。
その時には素人としての話し合いの基盤があって話をしたのですが、専門家的な話としては、「技術の問題」ではなく...