●「非核化」とは北朝鮮だけではなく、朝鮮半島全部にすべきではないか
―― そうしたら、ここで議論の整理のために、前回先生がおっしゃった、「朝鮮半島の非核化」といった場合、どういうイメージになるかということでお聞きしたいと思うんですけれども。
小原 皆さん、「北朝鮮の非核化」とよく言うんですけれども。
―― そうですね。「北朝鮮が(核兵器を)なくすんだ」というイメージですが。
小原 まさにそういうことではあるんですけれども、北朝鮮からすると、要するに韓国にも核兵器はあるんじゃないか、と。
―― それは「米軍の」ということですね。
小原 ええ。あるいは、持ち込まれるんじゃないかという、こういった不信感がものすごく強いんですね。実際に2017年には、大変な、最大限の圧力というようなことで、原子力空母だとか、原子力潜水艦だとか、まさに核爆弾を搭載できるような戦略爆撃機だとかが、朝鮮半島周辺に大挙しました。こういった核による威嚇というものをもなくすべきじゃないかというのが、「非核化」という言葉には込められています。北朝鮮だけの非核化じゃなくて、朝鮮半島全部の非核化にすべきじゃないかということです。
―― 北朝鮮も中国も、ある意味、イメージしているのはそのような非核化だということですね。
小原 そうですね。実際、「朝鮮半島の」という形容詞というか、限定句は、「北朝鮮」ではありません。実は2005年の6者会合の共同声明の中でもそういう言葉が使われてきているんですね。シンガポールで米朝首脳会談が行われた時も「朝鮮半島の」という表現が使われました。われわれは、ついつい「北朝鮮の非核化」をイメージしてしまいますが、実は「朝鮮半島の」というのが今のオフィシャルな言い方なわけです。
その中で実は、1991年に当時のブッシュ政権(お父さんのブッシュ政権のこと)が、韓国にある在韓米軍が持っていた核兵器を撤去しているんですね。これは、朝鮮半島から核をなくすために、イニシアティブをアメリカが取って、北朝鮮に核を保有することをやめさせようとした試みでした。そういう意味で、アメリカからすれば「持っていませんよ」ということなのですが、北朝鮮からすれば、それはなかなか信用できないし、いつでも持ち込めるんじゃないか、ということですね。
それから、アメリカは「戦略核」を世界中に撃ち込めますから、北朝鮮は極端なことをいうと在韓米軍のみならず、核の傘の中にいる米韓の軍事・防衛協力がもたらす同盟関係もその視野に入れているわけです。
だからある意味で、平和体制を構築するということは、北朝鮮からすれば「北朝鮮に対する敵視政策をやめなさい」ということなのです。そして、敵視政策の中身は何かというと、まさに米韓の合同軍事演習であったり、例えば核に圧力をかけていく制裁。それから、今言ったようないろいろな核攻撃など、武力によって北朝鮮に圧力をかけていくことです。「こういうことをやめてくれないと、自分は核とかミサイルを棄てられないじゃないですか」というのが、北朝鮮の言い分なわけですね。しがって、「朝鮮半島の」というのはそういう意味なんですね。
●「非核化」とは核ミサイルを廃棄することだけではない
小原 この「非核化」という言葉もまた面白いのですが、「非核化」という言葉からして、普通どういうイメージになりますか。
―― 簡単にいうと、「まず核兵器を廃絶しましょう」、というところにいきますよね。もう1個は運搬手段としてのミサイルをどうするか、というところになりますね。ミサイルなり、爆撃機なりをどうするかということになろうかと思いますけれども。
小原 実はこの「非核化(Denuclearization)」という言葉自身が、非常にいろんな意味を含んだ言葉なんですね。なぜこのような言葉になったかというと、まさに1991年ぐらいからその議論を重ねる中で、例えば1992年に当時のジェイムズ・ベイカー国務長官は「核問題」と言っているんですけど、いろいろな問題があるわけです。当時、北朝鮮はまだ核は持っていませんでしたが、核を開発することによって核の技術みたいなものが周辺に、例えば中東のシリアであるとか、あるいはイランであるとか、そういうところに広がります。つまり核の拡散ですね。
―― テロ支援国家的な部分ですよね。
小原 そうです。これを絶対防がないといけないというのが、アメリカが懸念した、1993年、94年あたりの最大の問題なんですね。そうなると、核の不拡散として「朝鮮半島の不拡散」という言葉がいいのかというと、今度は北朝鮮が事実上そうした核を持ってきますと、「不拡散」じゃなくて、そもそも持っているものを棄てなさいという話になってくるわけです。
―― その技術自体をということですね。
小原 そうですね。技術か...