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日米韓のデカップリングは「核の連鎖」を招きかねない

北朝鮮の脅威と日本の国益(5)デカップリングの可能性

小原雅博
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
情報・テキスト
「悪人の論理」と「弱者の論理」をどのように駆使し交渉するかは、非常に難しい問題である。しかしその中で、北朝鮮は日米韓の安全保障上の国益の違いを突き、分離工作を画策する可能性がある。それゆえ北朝鮮との交渉は、より広い文脈で捉える必要がある。(全9話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:06:48
収録日:2019/08/21
追加日:2019/10/25
タグ:
≪全文≫

●日米韓の国益の違いを突かれる可能性がある


―― 今、アメリカが交渉している立場としては、北朝鮮の核ミサイルはICBM、すなわちアメリカに届く大陸間弾道弾を積める技術がないという前提に立っています。

小原 望むべくは、ですね。

―― 前提としてはですよね。しかし、前回までの「悪人の論理」からすれば、北朝鮮は絶えず他国と合意をしては破りを繰り返してきているので、ここでもし中国の言うような2つの道を歩むということになった場合、またこれが時間稼ぎに使われてしまって、完全にアメリカを攻撃できる体制が整ったらどうするんだということになります。そうしたら、アメリカとしては「そんなの絶対呑めないぞ」ということになります。「悪人の論理」的な議論からすれば、やはり制裁に行くでしょう。かたや、交渉の受け手というか、もう一方の当事者である北朝鮮からすれば、いや、しかしどうなんだという、いわゆる「弱者の論理」的なものを主張してくるでしょう。

 このせめぎ合いの中で、今後、交渉をどうやって進めていくかというところなんですけれども、ここはなかなか難しいところですね。

小原 そうですね。やはり北朝鮮からすると、どうもアメリカ、日本、韓国の核の問題をめぐる国益というものが、実は完全に一致してないんじゃないかと見ている向きもあります。そうした亀裂をうまく利用して、分断を図っているというところはあると思うのです。

 典型的なのは、いまのICBMの話ですね。アメリカからすれば、ドナルド・トランプさんはアメリカ・ファーストですから、同盟国の利益よりはもちろんアメリカの利益が最優先ですね。したがって、北朝鮮がICBMさえ開発せず、実戦配備しなければ良いと考えています。極端なことをいえば、「もうICBMは作りません」というようなことをはっきりさせれば、アメリカの安全保障にとっては、あるいはトランプさんはそれでいいのです。もちろん、在韓米軍、在日米軍、グアムとか、いろいろあるのですが、しかしそれでは、実は日本とか韓国の安全保障の利益というのは損なわれるわけです。つまり、短距離、中距離のミサイルは残るわけです。


●デカップリングは「核の連鎖」を招きかねない


小原 これを、よくカップルを引き離すという意味の「デカップリング」といいます。

―― 分離工作ですね。

小原 韓国や日本がこの犠牲になってしまうと、これはたまらない。これはトランプさんによく言わないといけません。そして、日米韓の連携をしっかり保っていかないといけません。そうしないと、極端なことを言えば、日本自身が日本を守らないといけなくなります。

 僕は、このことは中国や日本がトランプさんに言った方がいいと思うんですけどね。とにかく、そういうことをやっていると何が起こるかというと、日本や韓国で、自分たちで核を持ち、自国を守らないといけないじゃないかという議論が出てくるんじゃないか思います。韓国ではかなりもうそうした世論が強いわけですが、日本ではもちろん、広島・長崎の原爆のこともあって、そうしたものに対しては非常に消極的な意見がまだまだ強いんですけど。しかし、将来的にはそういう可能性がないとは言えません。

 そういう意味でいうと、これはいわゆる「核の連鎖」です。東アジアでこれが起きてくると、非常に危険な状況になります。そのため僕は、これを米朝という2つの国だけの交渉として見るのではなくて、この交渉が与えるこの東アジア全体の安全保障という観点からよく考えていかないといけないと思いますね。


●米露INF失効の背後には中国の存在があった


小原 先日、米露のINF(中距離核戦力Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)全廃条約が失効しましたね。

―― 中距離の核戦力全廃条約ですね。

小原 お互いに約束を破棄したということで、両国ともどんどん開発を進めるということですね。このことの重要な背景にあるのが、中国なのです。中国はINF条約に入っていませんでしたから、その間に中国は中長距離のミサイルにものすごく力を入れて、特に台湾海峡を睨んで、開発を進めてきました。

 クリントン政権の時、台湾が民主化し「台湾危機」が生じ、選挙をするということで、アメリカの空母部隊がミサイルの発射をしたことがありました。その時に、中国は何もできませんでした。そこからずっと関係が非対称なのですね。そこで中国の戦略としては、こうした空母部隊などに攻撃ができるような、いわゆる潜水艦であるとか、いま言ったようなミサイルですね。

―― 地対艦ミサイルとか。

小原 そうです。そうした能力を非常に強化してきたわけです。これによって、今やアメリカの空母部隊も昔のようには簡単に中国に近寄れなくなってきています。中国はどんどん強くなっていますから、アメリカからすれ...
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