●イランの情勢は経済的な繁栄に大きく関わる
―― ここで話題を転じて、もう少し視野を広げてみます。今、核開発問題が出ているのがイランですね。日本の立場からすると、安全保障という面ではもちろん、北朝鮮の核というのは死活的な問題ですけれども、イランも石油の輸入等々を考えれば、経済的には極めて死活的な場所です。両方の違いで言うと、北朝鮮は一応核保有をしているという国であり、イランの場合は今まさに作ろうとしているという国ですね。
もう一方の要素としてあるのが、アメリカからすると二正面作戦といいますか、中東方面と極東で、両方こういう問題を抱えた時に、優先順位をどうするのかなど、色々な問題があります。これを日本としてどう考えるべきか。これは、かなり難しい問題だと思うのです。
小原 シリーズ冒頭で、日本は国家安全保障戦略の中で、3つの国益を掲げたと言いました。1番目が国家・国民の生存、安全です。そして、2番目の国益というのが国家・国民の繁栄なのですね。つまり、経済的な繁栄というものをどう維持していくかというのは非常に重要です。この国益と深く関わるのがまさに中東なのです。
日本は石油の多くを中東から輸入しています。今、問題になっているホルムズ海峡というのは、そういう意味で非常に重要なシーレーンに当たっているわけです。ここで何かが起こりタンカーが通れなくなってしまうと、大変なことになるのです。そこでアメリカは、ホルムズ海峡の海上警備に「有志連合」を結成することも企てています。
イランについては、実は北朝鮮と違ってこうした問題があるのですね。北朝鮮の問題は、第1の国益である国家・国民の生存と安全だけです。一方、イランは日本から極めて遠く、多くの日本の国民からすれば、日本と関係のない話じゃないかと思われるかもしれません。しかし今、ご指摘された通り、石油のことを考えると、非常に重大な日本の国益に関わる問題なのですね。
●アメリカのダブルスタンダート
小原 今言われたように、実はイランはまだ核を持っていません。事実上、北朝鮮は持ってしまいました。だけど現状では、NPT(核兵器不拡散条約:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)という核不拡散体制があります。こういった国際的な枠組みを守っていく上で、アメリカを含め、国際社会は絶対に、今持っている核を公式に持っていることを認めることはできないわけです。だからこそ、非核化のために、こういった今持っている核は違法ですよと訴えてきたのです。国連の安保理を含めてこうした決議をし、核を棄てなさいということをやっているわけですから、すでに持っているものを認めることはできません。だからこそ、核を棄てるために、みんながどういったプロセスで、これを棄てさせるかということを考えています。
こうした状況でイランを見たときに、イランはまだ核を持っていないということになります。このときにドナルド・トランプさんが言っているのは、オバマ政権が結んだイラン核合意が、実は核の凍結だったということです。これは、北朝鮮に要求している完全核兵器廃棄とは違うじゃないかと、問題視しているのです。
―― ダブルスタンダードだと。
小原 ダブルスタンダードじゃないかということを言っているわけです。僕は、オバマ政権が実現したイラン核合意は非常に大事な合意だと思います。これはいわゆるP5という、安保理の常任理事国5カ国プラスドイツの6カ国が長い時間をかけてまとめあげたものです。よく「ベター・ザン・ナッシング」と英語で言いますけど、これがなかったら、イランはどんどん開発を進めているわけですね。それを一応凍結させたということは、何もないよりははるかに良いわけですね。
現状では、アメリカは実はこの合意をもう破棄しましたから、イランはもう核開発をすると言っているわけです。それで、緊張が高まっています。今の状況と、前の状況を単純に比べれば、やはり合意があったときのほうが良かったんじゃないか。あるいは、ホルムズ海峡もここまで緊張しなかったんじゃないかというようなことはあるのです。
●世界の安全保障は核の問題にとどまらない
小原 別途イランの場合には、国内でいろいろな武装勢力が維持されているという問題もあります。
―― テロ的なことですね。
小原 ということですね。これはもちろん、イラク、さらにはイスラエルにも関係してくるし、イエメンの問題にも関係してくるわけですね。イランが支援しているイエメンの勢力は、なんと1000キロもドローンを飛ばして、サウジアラビアの石油施設を攻撃したりしているのですね。1000キロというのはすごいことです。
そういう意味で、世界の脅威に対する安全保障の概念を、少し変えていかないといけないんです。核だけ...