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●現代のアメリカでは強硬派が影響力を強めている
―― これはまさに、リビアもそうですし、北朝鮮も同様ですね。1990年代には、「悪の枢軸」という言葉をブッシュ政権が使いました。これも結局、「悪人の論理」と「弱者の論理」につながる話です。「弱者の論理」の場合は、「彼らは弱者なんだから、その立場を保証してやれば棄てるだろう」という、リベラル的な見方です。もう一方、アメリカのタカ派の側としては、「いやいや、あんな体制が残っていたら、人民の人権を抑圧しているし、かえって人民は不幸せだ」ということになります。
小原 まったくそうですね。
―― こうした体制を叩きつぶさないと、本当の意味での平和はやってこないという議論もあります。その両方のバランスは本当に難しい話ですね。
小原 難しい。だけど、今のホワイトハウス、つまりトランプ政権の周りでは強硬派がかなり強く出ていますね。ジョン・ボルトン補佐官は今言ったような、いわゆるレジームチェンジ(体制転換)をはっきり主張しています。イランの問題でもそうなんです。「こういう相手と交渉しても結果は良くない。だから、力づくでこの体制を倒してしまわない限り駄目だ」という考えです。
●制裁を続ければ徹底的に抵抗することが予想される
小原 ただ、問題は制裁というものをどういった目的、目標と絡み合わせていくのか、それによって制裁がどれだけ効くかということなんです。例えば、制裁の目標がイランの体制を倒すことだとします。あるいは、今の金正恩政権を倒して民主化することだとします。その場合、相手は絶対その制裁に対して、「ああ、参りました」「譲歩します」とは言えないでしょう。
―― もう完全に敗北を意味するわけですね。
小原 そうです。それを避けるために、徹底的に抵抗するでしょう。だから、そうした制裁というのは実は効かないんです。われわれも随分研究してきましたが、過去の制裁で成功してきているものは、ある程度向こうが受け入れ可能なような目標を追求するものです。そうでない限りは、その制裁は効果的じゃないんです。これはもう、はっきり歴史が示しています。
だから、ボルトン氏が北朝鮮の政権転覆まで考えているようであれば、この制裁は北朝鮮からすれば、絶対「分かりました」と認められるようなものにはならないと思いますね。
●核廃棄と体制保証を引き換えにするという選択肢
小原 それに対して「核を棄てろ」というのは、まだ可能性があると思うんです。「核を棄てる代わりに今のあんたの体制は安泰ですよ」とトランプ氏は言っているわけです。
―― 最初の米朝首脳会談の時にトランプが「調定を結ぶとこんなに経済発展しますよ」みたいなプレゼンをしたのは、そういう意味だということですよね。人民も幸せにできるぞという。
小原 そうなんです。「アメとムチ」と昔からよく言いますけれども、トランプ氏からすれば、やはり「北朝鮮が何を本当に望んでいるのか」というところを考えています。つまり安全というのは外側からの脅威とともに、国内からの脅威もあるわけですよ。彼のような独裁体制というのは、ひょっとしたら内から崩壊する可能性があるわけですね。
―― 相当粛清していますからね。
●金正恩政権の課題は経済的繁栄である
小原 ええ。そうなってくると、やはり習近平氏もやっているように、経済、つまり国民の生活を豊かにしていくということで成果を出さないとなりません。金正恩氏はまだ若いですから、これから政権を何十年も続けていくためには、核ミサイルだけではとても無理だというのは、多分分かっていると思うんです。だからこそ、2018年4月の党の大会で、いわゆる「並進路線」を表明しました。これからは核を開発することに集中するのではなくて、要するにもう一つの柱である経済建設に集中していくんだということを明らかにしました。
そういう意味でいうと、改革開放に北朝鮮が向かってくれるということは、中国にとってもプラスなわけです。中国は「一帯一路」と言っているように、北極ルートも含めて、とくに東北3省と北朝鮮の経済関係を非常に緊密にしています。そのため、今の制裁が緩和されていくことが、この周辺の安定にとっても資するのです。やはり中国の経済にとってもプラスです。
ベトナム・ハノイで会談がありましたが、ベトナムを訪問する時も、北朝鮮がベトナムの改革に関心があるんじゃないかという話がありました。金正恩氏が北京を訪問した時には、経済開発区も行っています。そういう意味で経済というのが一つのポイントになる。これからの日本が北朝鮮と交渉する上でも、日本は経済という意味では非常に強いですからね。そこがやはり中長期的に一つ大きなポイントになると思います。


