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日本にとって北朝鮮の最大の脅威とは何か

北朝鮮の脅威と日本の国益(1)北朝鮮の脅威とは

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
北朝鮮は、長らく日本の脅威であり続けているが、日本の国益の中で最も重要である国家・国民の生存と安全にとって、最大の脅威は核・ミサイルの開発である。これまで北朝鮮の非核化に向けてさまざまな交渉がなされてきたが、2010年代から各国との関係が悪化してきている。その経緯と背景について解説する。(全9話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:13:47
収録日:2019/08/21
追加日:2019/10/18
カテゴリー:
≪全文≫

●日本にとって北朝鮮の脅威とは何か


―― 皆様、こんにちは。

小原 こんにちは。

―― 本日は東京大学大学院法学政治学研究科教授でいらっしゃる、小原雅博先生にお越しいただきまして、「北朝鮮の脅威と日本の国益」というテーマでお話を頂ければと思っております。

 北朝鮮は、まさに今、と言うかずっとここ何十年にわたり、厳しい脅威であり続けています。しかし端的に現在、日本にとって北朝鮮の脅威とは何かとお聞きした場合に、どのような状況だと思われますか。

小原 安倍政権は2013年に、国家安全保障戦略というものを作りました。その中で、日本の国益は3つあるとしました。その中で最も重要なのが、日本の国家・国民の生存と安全なんですね。この生存と安全という国益に対する最大の脅威は何かというと、いろいろな議論があるのですが、確実に間違いなく、北朝鮮の核・ミサイルの開発がそのリストの1番か2番に出てくるのではないかと思います。これはコンセンサスの問題だと思います。

 具体的にいうと、いわゆるノドンミサイルです。これは日本全域を射程に収めているわけですが、これに核を搭載して、日本を攻撃するというシナリオが現実のものとなったとすると、どうなるでしょうか。

 日本はもちろん、日米同盟があり、核の傘があります。そして日本自身も、弾道ミサイル防衛システムを強化していますから、この攻撃に対しても、いわゆる抑止力での防衛を当然行うでしょう。しかし、専門の方が言うのは、北朝鮮は200発から300発ぐらい、ノドンを持っているだろうということです。そのため、例えば連射で何発も続けざまに撃ち込まれた場合、日本は本当に全部撃ち落とせるのかといえば、そこはなかなか厳しい状況になるんじゃないかと思います。

 それからよく、「デコイ」という言葉が使われます。ミサイルに何が積まれているかというのが分からないわけです。核が積まれているのか、積まれていないのか。あるいは、そこには化学兵器も積むことができます。また、何も積んでいないことがあるかもしれない。この「デコイ」というのは、まさに囮のことです。こういうものをたくさん日本にやってきたり、あるいは撃ち込まれたときにどうなるか。防衛面の方がやはり脆弱で、圧倒的に攻撃優位です。

 ですから、やはり日本にとって、国際社会が今、国連や米朝交渉といったプロセスで北朝鮮に完全非核化を求めて圧力をかけている中で、これをなんとか成功に導いていくという意味での外交が極めて重要です。

―― 先ほど、ノドンミサイルのお話がありましたけれども、先生のお考えでは、北朝鮮はもうノドンに核弾頭を積んで発射、つまり攻撃できるという状況だとお考えなのでしょうか。

小原 僕は専門家ではないのですが、アメリカの専門家の間では、皆その点では一致しているんじゃないかと思います。それだけの能力を、北朝鮮は持ったと見ていいと思いますね。


●北朝鮮の非核化に向けて、どのような取り組みがあったのか


―― 当然日本としては、そういう状況になってしまうと困ります。そこで1993年くらいからでしょうか、周辺国を巻き込んでいろいろな交渉がやられてきましたけれども、今に至るまでうまくいっていません。こうした交渉をざっと振り返ると、どういうことになりますか。

小原 まず1993年から94年にかけて、いわゆる第1次核危機が起こります。北朝鮮が核を開発しているという疑惑があったのです。これに対してアメリカがどう対処するかということで、アメリカは真剣に、北朝鮮に対する武力攻撃も検討したんですね。

―― あの頃は相当、北朝鮮攻撃があり得るということがささやかれていました。

小原 はい。クリントン政権の下で、です。それで、在韓米軍などを中心にシミュレーションもしました。ところが、その結果は、韓国側、在韓米軍側にも、大変な犠牲が出るというものでした。そのため、ビル・クリントン大統領はこれを思いとどまるわけですね。

 他方で、交渉でこの非核化を進めていこうじゃないかという動きも見られました。ジミー・カーター元大統領が訪朝し、そこでいわゆる枠組み合意(Framework Agreement)ができるわけです。これに従って交渉を行っていこうという枠組みが示されました。これは、北朝鮮が非核化を進める代わりに、アメリカ側は例えば石油を供給したり、平和的な原子力の利用のために、軽水炉などの建設を協力するというものです。もちろんそこに日本や韓国も入っていくのですが、ともかくそういった合意ができたのです。

 しかしその後、実はその合意が十分には守られませんでした。日本やアメリカは、北朝鮮が約束を破ったと見なしたのです。そこで「こういうことを繰り返しちゃいかん」ということになりました。その後は同様に、北朝鮮が挑発的なミサイルあるいは...
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