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世界の保安官を演じてきたアメリカの役割の変化

アメリカの役割の変化(1)日韓問題とトランプの態度

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
山内昌之氏はレーダー照射問題、徴用工判決問題を機に日韓関係が新たなフェーズに入ったと指摘し、それに対するトランプ大統領の態度に注目する。トランプ氏はいまだ日韓関係への介入の意思を示さないが、介入する意思がないと感じるのはそれだけではない。彼はシリア撤退、NATO脱退という驚くべきプランを構想しているという。これは、今まで世界の保安官を演じてきたアメリカの役割が変化しつつあることを意味している。(全2話中第1話)
時間:12:10
収録日:2019/01/24
追加日:2019/03/25
ジャンル:
≪全文≫

●日韓関係の大きな試練とアメリカの態度


 皆さん、こんにちは。

 2018年の12月に起きた日本の自衛隊機に対する韓国海軍によるレーダー照射問題、ひいては韓国における最高裁の徴用工判決によって、日本企業の資産が差し押さえられる可能性が強く出てきました。こうしたことに見られる日韓関係の大変大きな試練は、これまでも両国間にあった危機、あるいは紛争の可能性などとはやや性格の違うもの、フェーズ(位相)の違うものになっているのではないかと、私には思えてなりません。

 今のところ、両国にとっての同盟国であるアメリカには、この問題に対して介入し、調整を図ろうとする意思がなさそうです。もともと日米安全保障条約といったアメリカとの二国間の防衛的な取り決めは、こうした友好国との紛争という問題を全く考えていなかったわけです。


●日韓関係はこれまでの経験則では解決できない段階に


 アメリカは韓国とも同盟条約を結んでいます。したがって、アメリカの立場からするならば、これは明らかに同盟国間の紛争です。しかも北朝鮮という核保有国に対しては北東アジアにおいて対峙しています。最近の韓国の大統領の動向はともかくとして、少なくとも条約や法理論、ひいては国際関係全体においては、そのような理屈になるのです。

 こうした日本と韓国という安全保障面における大変重要なパートナー同士が対立するのは、アメリカにとっても考えられないシナリオでした。また日本にとっては、これまで韓国との間にいくつかの問題、歴史認識、竹島の領有問題、そしていわゆる従軍慰安婦の問題をめぐる紛争や対立があったにせよ、なんとかこれはマドリングスルーとでもいいましょうか、あれこれやりくりしながら二国間関係を調整してきたという歴史がありました。

 しかし、現在の状況は、これまでの経験知、あるいは経験的な法則で培ってきた問題、その解決の手法が機能していない。それどころか、このような問題に関して紛争を解決しようという意思が、少なくとも私たち日本人の方から見るならば、韓国政府にはない、と考えざるを得ないというのが現状かと思います。


●自らの問題に向き合う構えが欠如していた日本


 しかし、考えてみるとこの種の問題は、日本がきちんと解決する、あるいは解決のために向かい合うといった基本的な構えや法律的な根拠を、自ら安全保障の問題として考えていなければならなかったはずです。ですが、歴代の日本政府と関係する当時の、そして今もそうですが与党との間には、この種の問題についてきちっと向かい合うという雰囲気が、非常に少なかったように思われます。

 話せばなんとかなる。韓国の言うことについて認めれば、問題は解消される。あるいは、韓国の被害者意識に対してもっと沿うべきである。いろいろな考え方の違いはあっても、基本的には問題そのものに関して、一つの国家、一つの国民として正面から考えてみるという構えに乏しかったということが、今日多くの点で日本人を困惑させている原因ではないかと思います。


●アメリカのシリア撤退計画、NATO脱退構想に世界が困惑


 アメリカに関して、先ほど私は「介入する意思がない」と言いました。少なくとも当面そのような意思はなさそうだと思えるのは、何も日本と韓国の問題に関してだけではありません。そもそも、ドナルド・トランプ大統領が2018年暮れに、(レーダー照射問題、徴用工問題などと)ほぼ同時期に発表したシリアからの撤退計画や、あるいは2019年になってから暴露されたNATOからのアメリカの脱退構想という驚くべきプランがあります。これらと共通する側面があるということを、日本および日本人は冷静、かつリアルに認識しなければいけないのです。

 もちろん、アメリカのこの種の動きに一番困惑しているのは、日本だけではなくEU各国もそうなのです。特にドイツ、フランスはイギリスのBREXITなどと絡むことによって、NATOからのアメリカの脱退構想に大変困惑しているかと思われます。


●ゲーリー・クーパーの役割を担ってきたアメリカ


 日本にしてもEUにしても、あえて分かりやすい言い方をするならば、ややずるいところがこれまであったわけです。歴史や政治などのさまざまな面において、例えば韓国との関係がこじれそうになったとき、あるいはこじれたとき、また、ロシアとの関係がヨーロッパ、EUにとって複雑になり、正面から対峙できなくなる、あるいはなりそうになったときに、これまでなら暗黙のうちに、アメリカが乗り出してきて正面から、もしくはからめ手から、問題をそれとなく解決とまではいかなくとも棚上げするというようなそぶり、ジェスチャーを見せる。そのことによって、問題の深刻化、紛争のエスカレーションを避けることができたということがあったのです。

 いってみれば、...
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