●ウイルスサイズのナノマシン
では、私たちのめざすナノマシンのサイズはどのぐらいなのかということです。ナノマシンの大きさはなかなかイメージがつかみにくいと思いますが、スライドにありますようにだいたい30ナノメートルで、1ナノメートルは10のマイナス9乗メートルです。
そういってもなかなか分からないと思いますので、人が地球の大きさだとすると、ナノマシンはサッカーボールの大きさです。ですから、地球の上にあるサッカーボールが人の体の中にあるナノマシンだと思ってください。少したとえが悪いのですが、それがだいたいウイルスと同じぐらいのサイズです。冒頭にも申し上げたように、こんなに小さいものなので、分子を組み上げて作らなければいけません。
そういうわけで、まずステップ1では、いろいろなナビ機能やセンサー機能、オペレーション機能を創り込んだレゴ分子を作ります。それを選択して、自動会合によって均質かつ多様なナノマシンを構築します。そうして、個人情報や疾患の多様性に対応したナノマシンによる診断と治療を行っていこうというものです。そのため、ウイルスサイズの超微細化、多様性に対応した機能の超集積化、分子情報に的確に応答する超精密化が目標になります。
こうやって申し上げても、皆さんなかなかイメージがわかないと思います。その一つの例として、抗がん剤を搭載するナノマシンが分子の組み合わせでどうやってできているのかをこれから動画で示したいと思います。
※以下、動画より
《ナノカプセルの材料、水になじむ部分と水になじまない部分をもった高分子です。水になじまない部分に抗がん剤を結合させます。この分子を水に溶かすと薬が結合した部分は水を避けるように集まります。ミセルという二重の殻をもつ球形の高分子になります。水になじむ外側の殻は生体から拒否反応を受けず、内側の殻は薬をしっかり包み込みます。》
ここで「ミセル」という言葉が出てきました。聴いている方の中に化学が専門の方がいるかもしれません。そういう方にとっては、ミセルというと、石けんのミセルかシャボン玉が思いつくと思います。ただ、石けんのミセルはすごく不安定ですが、これは高分子という分子量の大きいもので作っているので、すごく安定しています。体の中に入れても、この構造がむやみに壊れたりはしないようになっています。
それから、外側の水色の部分も大事です。これが、体の中に入れても異物として見つからないような仕掛けを作り出します。
●ナノマシンを体内に入れたとき重要なのは高いステルス性
ここで、体の中にこういうもの(ナノマシン)を入れたときにどうなるのか、お話ししたいと思います。
がんに薬を送りたいとすると、がんは左上の赤枠部分にあります。血管は体のパイプラインです。そして薬はその下の赤枠部分にある静脈から入れます。この静脈から最短距離でがんに行くわけではなくて、例えばミセルを打ち込んだとすると、必ず心臓に戻ります。心臓から全身のパイプラインに行って、そのうちの一部が、がんを通ったときにうまくがんに集まってくれます。これを繰り返すことによって、がんに集まります。ですから、1回で集まるのではなくて、何度も何度もぐるぐる回る必要があります。つまり、がんにいっぱいミセルを集めようとするなら、なるべく長く血管の中にいてほしいということです。
実は今問題なのは、肝臓や腎臓という臓器で取られてしまうことです。だから、それを取られないようにすることが大事です。
では、ぐるぐる回すにはどうすればいいでしょうか。心臓から出ていって心臓にまた戻ってくることを「心周期」といいますが、心臓から出ていったポリマー、つまりミセルが1回の心周期でどのぐらいの割合で戻ってくるかという問題があります。
それから血中半減期は、100のミセルを静脈注射したとして、それが50個に減るまでの時間です。そうすると、12時間で半分ぐらいはいてほしいと思います。そのためには、心臓から100個、あるいは1000個出ていったら、1回でどれぐらい戻ってこなければいけないでしょうか。900個なのか、あるいは990個でしょうか。
答えは99.90パーセント、つまり1000個心臓から出ていったら、1回で999個が戻ってこないといけないということです。そのぐらいの割合で戻ってこないと、12時間で50パーセントの値を維持することはできないのです。こういうことを「ステルス性」といいます。レーダーに見つからない飛行機を「ステルス戦闘機」といいますが、それと同じで、すごく高いステルス性が重要...