●老化した細胞を若返らせることは科学的に可能である
皆さん、こんにちは。順天堂大学の堀江重郎と申します。
今日は「アンチエイジング・メソッド」ということで、最近話題になっているアンチエイジングについて、医学的な側面からお話しさせていただきます。
アンチエイジングというと、加齢に伴って起きた変化を元通りにする、あるいは加齢の変化が起きないようにすると思われている方が非常に多いのではないかと思います。
いわゆる若返りとは、いったん加齢の変化を受けた、あるいは、言葉が悪いのですが、老化した組織が元に戻ることです。実験動物においては、これはすでに可能であることが分かっています。数学になぞらえて言うと、「解答が得られている」、あるいは、われわれの言葉で言うと、「問題が解かれている」という状況にあります。
2014年に非常に画期的な学術論文が発表されているのでご紹介したいと思います。非常に簡単な実験です。実験動物のネズミはたくさんの種類がいますが、一つの種類においては、だいたい遺伝子が一緒なので、例えば臓器移植をしても、拒絶をされることはありません。つまり、ほとんどクローン動物に近い状態で飼育することができるようになっています。
その実験動物のネズミのうち、歳を取ったネズミと若いネズミの2匹を並べて、その皮膚をガチャンとホチキスで繋いでしまいます。そうすると、毛細血管がくっつくことによって、若いネズミと歳を取ったネズミの血液が交通することになります。
若いネズミに比べたときの、高齢のネズミの特徴の一つ目として、筋肉が痩せてきます。二つ目に、匂いを感じなくなります。匂いの神経は、脳神経の末端であり、脳神経の一部で、匂いを感じなくなることは、脳神経が加齢に伴って退縮していくことだと思います。三つ目に、血液の流れも悪くなります。
この三つが高齢のネズミの大きな特徴になっているのですが、面白いことに、若いネズミとくっつけたネズミ(高齢のネズミ)においては、神経が再生してきて、匂いを感じるようになります。また、筋肉が再び盛り上がってきます。そして、血管がより豊富になって、血液の流れが良くなってくるという結果が見られました。
これは最初、若いネズミの中の身体にある、「幹細胞」という、いろいろな臓器に分化できる細胞が、若い細胞から歳を取った細胞に流れていって、もう一回、神経の再生や血管の再生、あるいは筋肉の再生をするのではないかと思われていました。しかし実はそうではなくて、この高齢のネズミそのものの幹細胞をもう一回、骨髄という血液をつくる、増血作用のある場所から持ってきて、筋肉、血管、あるいは脳神経が再生することが分かってきました。
血液成分のうち、血液の中から血球を取り除いた部分を「血清」というのですが、つまり、この若いネズミの血清には若返りをさせる力があることが分かりました。
●アンチエイジングのさまざまな方法と加齢速度の測定
どういう成分がこういうことを起こすのかを、今、世界中の研究者や企業が血眼になって探していて、「GAFA」と呼ばれる4大企業が大変なお金を現在投資しています。例えば、GAFAの経営者の一人であるジェフ・ベゾスさんの持っている株式の評価額は桁違いで、天文学的な価値があります。人生そのものに大変な価値があることから、1年でも長生きするために大変な額の投資を行っています。
それ以外にも、老化を制御する治療にはいろいろあります。白髪と少し似ていて、体の中で起きてくる老化現象は一様に起きてくるのではなくて、老化した細胞がぽつぽつと出てきます。最近報告されたものでは、そういった老化した細胞だけを取り除く治療も現在では研究が進んでいます。また、これからお話ししますが、寿命を規定する遺伝子の部分であるテロメアというのがあり、これを伸ばすようなお薬や、その他さまざまなお薬が今開発されているところです。
特に20~30代で健康状態は一種、機能面でもマックスを迎えていきます。アンチエイジングの介入をすることによって、70歳や80歳になっても20代や30代の身体の機能を維持していく、あるいはその低下を抑える、そして、いろいろな疾患を抑えていくことが現在期待されています。
10年前、20年前というように写真をアルバムに整理して見ていくと、同じ顔でも変化があります。実は面白いことに、あの人は見た目が若い、あるいは見た目が歳をとっているという認識は、子どもや大人、あるいは高齢者など、どの世代の人が見ても、だいたい一致すると言われています。要するに、子どもが「あの人年齢より若いね」と...