●遺伝学の導入によって進んだオートファジー研究
では、ここからは、いったいオートファジーがどのような仕組みによって起こっているかということについて話を進めていきたいと思います。
オートファジーは1960年頃に発見されたといわれていまして、当初は、先ほどのように電子顕微鏡を使った実験、あるいは細胞をすり潰して、それを生化学的に解析するような研究が中心にやられていました。ところが、1980年代になりますと、選択的分解経路であるユビキチンやプロテアソーム系というものが発見され、そちらの研究は非常に進んでいきました。実際、研究者の多くもオートファジーからユビキチンのほうに流れていったのではないかと思います。
ところが、オートファジーの研究のほうにも、1990年に入ると遺伝学が導入されて、それをきっかけにオートファジーの研究は今、非常に大きく展開をしている状況です。
この遺伝学ですけれど、スライドに示すような多くのモデル生物が、生命科学の研究にこれまで多大な貢献をしてきました。例えば、細胞周期という、細胞が分裂するような研究には原核生物である大腸菌とか、非常に単純な単細胞真核生物である酵母などが活躍しましたし、細胞腫の研究には線虫が、あるいは自然免疫の研究ではショウジョウバエという昆虫がとても活躍したわけです。
オートファジーも、実はこのモデル生物が非常に貢献をしたのですけれど、その生物は「出芽酵母」という生物です。
●出芽酵母の細胞を使いオートファジーに必要な遺伝子をあぶり出した
2016年、ノーベル賞をとられた大隅良典教授ですけれども、大隅先生はこの非常に単純な、パンを作るパン酵母である出芽酵母にもオートファジーの仕組みがあるということを発見して、1992年に報告をされています。
酵母におきましても、やはり飢餓状態になると細胞の中にオートファゴソームができます。酵母はリソゾームの代わりにもっと大きい液胞という分解のための小器官を持っていまして、オートファゴソームはこの液胞と融合します。そうしますと、オートファゴソームの中身は液胞の中に入っていって、そこで速やかに分解...