長い狩猟採集時代からそれこそ昭和初期の頃まで続いてきた「共同保育」という子育て方法。それを「原点回帰」として捉えて見直すときが来ているのではないか。今回から2話に渡って行われる対談編。今回は子育てにおける祖父母のかかわり方や、父親の子育て、家事について考えていく。(全5話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●乱婚はない…一夫一妻で共同保育のヒト
―― 長谷川先生、本日はまことにありがとうございました。
長谷川 こちらこそ、どうも。
―― 今回、「ヒトは共同保育」というお話をいただき、いろいろな動物による違い、人間が発展・発達してくる過程での部分をお話しいただきました。ヒト(人間)の場合はやはり特別な見方をしなければいけないでしょうし、今の社会を考えるにあたっても背景を理解する必要がある。生物としてのヒトの背景を、しっかり考えていかなければいけないと思いました。
最初に一つお聞きしたいのは、動物の場合は配偶と子育てにそれぞれ仕組み(その組み合わせ)がある一方、ヒト(人間)の場合は共同保育ということになり、両親だけではなく他人も含めた周りの人全てが一緒に育てるという仕組みだったと聞きました。
そうだとすると、ヒト(人間)の本来の配偶システムはもともとどうだったのか。本当に一夫一妻なのか、それともみんなが育てるのだとすると乱婚がそもそもの形だったのか。いろいろと想像を働かせてしまったのですが、ここはどのようなことでしょうか。
長谷川 人間には非常に強い恋愛感情=愛着というものがあり、嫉妬もあります。このような心理状態があるということは、独占的に誰かと一緒にいたいということなので、乱婚ではありません。乱婚はいろいろな相手と次から次に組み合わさり、お互いに嫉妬もしないし、独占しようともしない。チンパンジーがそうですが、それとはまったく違うと思います。
―― チンパンジーには嫉妬がないのですか。
長谷川 嫉妬はしないですね。次々に並んで交尾するような状態です。一方、ヒト(人間)はどんな文化や時代でも、一人のヒトと一人のヒトの恋愛や強い愛情というものが必ずある。そういうものをなくしてしまおうとして、1970年代のカリフォルニアなどでフリーセックスの運動が起こりましたが、それをやってみても嫉妬はなくならなかったのです。
―― そういう取り組みや実験自体がうまくいかないというケースもあったと。
長谷川 ええ。カップルは絶対にありますから、カップルができるという意味では、多分一夫一妻なのでしょう。現象的にそうだろうと思うのですが、財産のようなものができてくると、一夫多妻になることが可能になった。それでも、一人の女の人と複数の男の人という一妻多夫は、極めて稀です。ただ...